2005年大会INDEX

2005年日本平和大会in神奈川 国際シンポジウムパネリスト発言


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ジア・ミアン


プリンストン大学
ウッドロー・ウィルソン公共・国際関係学部
科学地球規模安全保障プログラム

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帝国の防衛:核兵器、軍事基地とアメリカ合衆国

はじめに

 戦争は、永続する遺産を数多く残す。敗北したと思う者にも、勝利したと思う者にも、両者の間で逃げ場を失った者たちにも。第二次世界大戦から60年たった今なお残るもっとも明白な遺産は、核兵器と米軍の世界的プレセンスである。核兵器、軍事基地、軍事同盟をもって、米国は世界中に蝕手を伸ばすことができる。

 米国は核武装した帝国である。1万を超える核兵器を持ち、そのうち2000発はいまだ一触即発体勢に置かれ、15分で発射できる。そしてこれら核搭載ミサイルは世界のほとんどどの場所にも到達できる1。こうした兵器を使い、米国は世界のどの地域にも脅しをかけられる。核不拡散条約(NPT)のもと、自国の核兵器を廃絶するという国際的法的義務を負っていることも無視し、米国は、明らかにより耐久性があり、より使い易いと見える新型核兵器の開発計画を進めている。同時に、世界の重要地域で、政治的・軍事的影響力を行使するアメリカの力に制限を加えかねない国の手に核兵器が渡ることは阻止するつもりである。

 米国は、「基地の帝国」でもある2。約130の国々にある700ほどの軍事基地以外にも、これらの国やその他の国に数多くの軍事施設を持つ。現在、150を超える国に50万を超える米軍人および軍属がいると推定されている3。米国の「2004年世界的国防態勢見直し」には、いわゆる「対テロ世界戦争」の一環として、外国米軍基地の数の増加が含まれている。米国が、軍事基地を置いている国の民主主義より、軍事基地を置く必要性のほうをはるかに重視してきたことは、長い間の歴然たる事実である。近年、基地の建設・維持にあたりアメリカと結ぶ合意は「悪魔との取引」にすぎないと言われてきた4。今後交わされる基地協定もまちがいなく、同じ種類の悪魔との同じ種類の取引を伴うことになる。

 米国は、世界の主要国とのあいだに長期的な軍事同盟も維持してきた。これらの同盟の多くは、まず第二次大戦の終わりと冷戦の初期に作られた。60年後の今もそれら同盟の重要性は変わっておらず、弱まるどころか増強される兆しを見せている。また、米国が新たに同盟国に引き入れようとしている国々がある。米国はこうした同盟国の一部が核武装をする様子を静かに観察してきた。

 これら核兵器・基地・同盟はアメリカ帝国の最も顕著な道具で、帝国が毎日、毎時、世界中で権限と影響力を行使することを可能にしている。これらが果たす役割と、これらがどのようにつながりを深めつつあるかを理解することが重要である。まずこれらの問題を個別に検討したあと、三者の相互関連と、それらが引き起こす危険を見てみたい。


核兵器

 アメリカの広島と長崎に対する原爆投下の後、マハトマ・ガンジーはこう述べた。「原爆は、同盟軍に空虚な勝利をもたらしたが、当面、日本の魂を破壊する結果を生んだ。破壊する側の国の魂に何が起こっているのか、判断するにはまだ早い。」

 冷戦のあいだ、アメリカに起こった変化は明白になった。この国は、より多くのより強大な核兵器をつくり、世界を終焉させると脅迫した。米国の1960年核戦争計画では(当時使用可能であった2万発のうち約3000発を使っただけで)、3億6千万から5億2500万人が死亡すると推定されていた5

 米国はまた、多くの国に核兵器と核兵器の部品を配備した。カナダ、キューバ、グリーンランド、アイスランド、日本、モロッコ、フィリピン、プエルトリコ、大韓民国、スペイン、台湾、ベルギー、ギリシャ、イタリア、オランダ、トルコ、イギリス、西ドイツである。こうした国々の政府ですら、自国の米軍基地に核兵器や部品が貯蔵されていることを知らないケースもあった。民主的説明責任の甚だしい欠如である。

 何十年にもわたり、米国の指導者らは、核兵器はソ連と冷戦をたたかうために必要なものなのだと主張してきた。しかし、ソ連崩壊から15年たった今、米国の政策の道具としての核兵器の重要性はこれまで以上に増している。ブッシュ政権の「2002年度核態勢見直し」は、「戦略的、政治的目標を達成するため」、無期限の将来にわたり核兵器への依存を続ける、と宣言している。「見直し」は、核爆弾を製造する新たな施設、新型核兵器の研究、新たな運搬システムその他多くのものを命じている。

 「2002年核態勢見直し」が打ち出した新戦略において、核兵器は「米国や米国の同盟諸国の利害を脅かしうる軍事計画や作戦の実行を敵に思いとどまらせるよう」使われることとなっている。「見直し」は、考えられる標的としてロシア、中国、北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアを名指しし、「安全保障への突発的・予測不能な難題」への対応にあたって核兵器を使用する道を開いた。なかでも、「核態勢見直し」は、「核攻撃能力に必要な要件を設定するにあたっては」、「安全保障への突発的・予測不能な難題」を含む「不測の事態」を検討することが必要だと提起し、その際の例として、「現存する核兵器が新たな、敵対的指導者グループの手に渡るような突然の政権交代」を挙げている。

 こうした提案は核兵器設計者と核軍事計画者の圧力により出されたもので、冷戦時代につくられたこの強大な複合体は、いま世界における新たな役割を探している。米軍顧問も務める核兵器研究所の幹部らは、第三世界諸国に向けた特別な小型核兵器の開発を提案している。彼らによれば、「高出力の戦略〔核〕兵器への依存」を続けること「は自己抑止、つまり戦略的オプションを制限することになりうる」ため、冷戦後の世界において米国には新種の小型核兵器が必要である、というのだ。

 米議会は、新型核兵器の開発計画、「高信頼性弾頭交換計画」への支出を承認している。この計画の目的は、将来的に(6000発におよぶ)すべての核弾頭を新たに作られた新型弾頭と交換することにあって、これら新型弾頭は、既存の弾頭より製造・維持が簡単で、耐久性も信頼度も高く、かつそれを核実験なしでできる、ということになっている。米軍は、2004年「暫定地球規模攻撃警戒指令」も導入しているが、この指令のもと米軍は、非常に短時間の通知で世界のどこでも攻撃できる準備を整えることになっている。軍は、このような攻撃を「半日またはそれ以下」で実行でき、核兵器を使うこともできるようになる、と主張している。

 こうした動きを見るなら、冷戦時代の核の遺産が、私たちを深刻な境遇に置いていることがはっきり分かる。米国は、とりわけ第三世界諸国に対する使用がより容易になりうる核兵器を作ろうとしている。60年間、戦争での核兵器使用を阻止してきた広島と長崎の影を消し去りたいのである。


核兵器と軍事基地

 アメリカは第三世界への核拡散を心配しているが、これは長い話の一部にすぎない。核不拡散条約が交渉され調印された1960年代後半という時期が、米国が東南アジアで戦争を進め、中東と中南米に盛んに介入していた時期であったことを銘記する必要がある。NPTが生まれた主な理由は、米国の指導者らが、自分たちが死活的利害をもつ地域に核兵器が広がれば、どのようなものであれアメリカがそこへ介入する際の危険が高まると考えたためである。

 しかし、冷戦の後、核兵器拡散に対する懸念は高まる一方である。理由のひとつは、対抗勢力のソ連なき今、米国がより自由に第三世界諸国に介入できると考えているためだ。第三世界諸国の軍部にとって、米国と通常戦争を戦って勝利するなどは望むべくもない。ブッシュ政権のある関係者は核兵器についてこう述べている。「米軍に対抗できる望みなど皆無な、つまらない小国にとって、これは現実的な平衡装置だ」6。米国が干渉したい地域の国が核兵器を手にすれば、明らかにどんな介入であれ対価は大きくなるし、アメリカの世論を納得させることも難しくなる。

 しかし、核拡散を統制しようというアメリカの意欲は、世界中に張り巡らせた米軍基地のネットワークとも直接関連している。(アメリカで2番目に大きい核兵器研究所である)ローレンス・リバモア国立研究所の名誉所長であるマイケル・メイと、クリントン政権で軍備管理軍縮局の副局長を務めたマイケル・ナクトはこう説明している。

 「冷戦以来、米軍の最優先事項は、議会での証言にあるように、世界で最も効果的な戦力投入部隊を配備することである。これらの部隊は、バルカン半島でも、ペルシャ湾でも、中央アジアでも使われてきた。戦力投入部隊は、敵対的領土の中でまたはその近くで作戦をおこなう。…どんな投入部隊にも、航空基地や上陸港、作戦維持のための後方支援センターが必要である。こうした施設は賃借あるいは征服されなくてはならない。そのような場所の数は限られている。イラクでは一握りしかないし、東アジアではもうそれほど残っていない。日本では7つぐらいで、韓国ではいくつか基地があり、その他にほんの少しあるだけである。こうした施設は、不正確な核ミサイル攻撃といったものによって、攻撃にさらされる危険が非常に高い。核兵器の(攻撃を受けやすい)「ソフト・ターゲット」であって、「強固な」標的ではない。…

 米国の重要な部隊投入資産に対する核の脅威は、必ずしも都市全体や産業基盤を破壊せずとも、米国の通常部隊の強みを大きく相殺してしまう。北朝鮮やその他のならず者国家のミサイルや核兵器能力を抑制するにあたっての危険は相当大きい。したがって米国は、同盟国やその他関係諸国とともに建設的に協力し、これらの国々がほぼ確実に保有を目指しているミサイル・核能力を与えることのないよう、使いうるすべての資源を活用しなくてはならない。より効果的なアメリカの世界戦略のためには、より柔軟な前方防衛と抑止態勢が不可欠である。」7


 世界中の米軍基地と部隊に対する核の脅威を恐れる気持ちが引き金となって、米国は、基地や部隊を防衛し、その他の手段でアメリカの力を行使する方法を探っている。アンドルー・リヒターマンはこう見ている。

 「21世紀の戦争において米国が狙っているのは単独確証破壊である。つまり、使用されうる前に敵の最も危険な兵器を破壊するため、または、米国が容認し得ないと宣言した指導者を殺すため地球のあらゆる場所に到達できる能力、その上で米国の前方展開部隊や米国自体への報復を阻止する能力である。」8

 
 この目的達成に向け多くのシステムが開発されている。例えば、「宇宙配備レーザー」計画がそうだが、これは、長距離および短距離ミサイルを打ち落とせるレーザーの建設を目指したものだ。レーザー計画は、はるかに大規模な一連の計画の一部であって、全体としてはそれ以外に、戦場用の対弾道ミサイルシステム、空母と戦艦を守るその他のシステム、発射直後のミサイルを打ち落とすための空中レーザー、「限定的攻撃に対するグローバル防衛」システム案という100から200のミサイル弾頭を破壊しうるシステムなどがある。9
 どうやら米軍の立案者たちは将来の紛争を不可避と考えているようであるが、米国に倣って作られた兵器や戦略で武装した軍隊が現れると、今度は自分たちの帝国遠征軍を守る方法を探ることでこれに対応しようとする。そうすれば、多くの死傷者を出さずに、よって国民の支持を失う危険を負わずに、部隊を配備し戦争ができるからである。


核の同盟

 米国は、長い間、地域紛争で同盟国として仕えてくれる国々に頼ってきた。こうした国々の一部は核保有国である。それ以外の国は、米国の核戦力配備ができる基地として使われてきた。また、自国軍を増強し、アメリカの戦争計画で一役買うことを勧められてきた国もある。

 もっとも知られているのは、冷戦中欧州でこうした役割を果たしてきたイギリスとフランスの例である。米国は、この関係の一環として両国の核兵器計画を援助した。中東において、最も有名かつ物議をかもす米軍の核同盟国はイスラエルである。イスラエルは、五大核保有国以外で、最大かつ最も成功をおさめた核兵器計画を有する国である10。この国は、NPTに調印しておらず、数百発の核兵器と4000キロ射程の弾道ミサイル(エリコ2号)を保有すると同時に、核兵器運搬能力のある航空機と潜水艦発射巡航核ミサイルも持つと考えられている。

 米国のイスラエル支援にはどうやら際限がないようである。イスラエルが核兵器を使う準備をした1973年の戦争も、1982年約2万人が殺され多くの負傷者を出したレバノン侵攻、その後2000年初めまで続いたレバノン南部の占領、パレスチナ人に向けられた暗殺・爆撃政策、そしてパレスチナ人の住む西岸とガザの不法占領の一部である国際法の広範な侵害は言うに及ばず、アメリカの対イスラエル援助になんの影響も及ぼしていない。ほかの国であればこのような行為にはるか及ばないことをしても、「ならず者国家」とレッテルを貼られ、米国による非難と懲罰の対象となる。

 米国は、この20年間、イスラエルに700〜800億ドルの軍事・経済援助をおこなうことで、イスラエルとの協力体制を固めており、現在は年間30億ドルをゆうに超える援助をしている。イスラエルが、米国とフランスの核兵器設計と核実験専門知識さえも入手できていた可能性がある11。1998年、米国はイスラエルと交わした「合意覚書」で、「イスラエルの防衛および抑止能力を強化」し「米・イスラエル間戦略・軍事関係の体制および両国の技術協力を向上させる」と約束した12。この合意には、「最新の技術と兵器システムを供与することでイスラエルの抑止力を確保し強化する方法と手段」を提供する約束も含まれる13。これを、イスラエルの核保有にたいする米国の積極的支援の約束以外のものとして理解することは難しい。

 もう一国、米国が核同盟国にしようとしているのがインドである。米国がインドに核兵器を持たせようとしていたことは1961年の提案で明らかになった。ここで米国は、「アジアの友好大国が共産中国に一撃を食らわす」ことができるよう、インドの核兵器保有と実験の実施を支援するとした14。1964年、中国初の核実験をめぐりアメリカの懸念が高まっていた最中、国務省と国防総省の高官らは、インドに「米国の保護下にある核兵器を提供する可能性」を検討するところまで行った。この計画の構想には、核兵器が投下できるよう航空機の改良、搭乗員の訓練、投下実験用の模擬兵器と標的決定にあたっての核兵器の効果情報の提供でインドを支援することが含まれていた15。同時に、米原子力委員会は、米国の管理下で米国の核装置をインドで爆発させるという「平和的核爆発」でインドを支援することを検討していた16

 1998年、まずインドが、そしてパキスタンが核実験をおこなった。しかし、2000年米国は、インドと新たな関係づくりを追求していることを明らかにした。この時の共同声明は、「インドと米国は平和のパートナーとなり、地域と国際の安全保障の擁護に共通の関心と相互補完的な責任をもつ」と宣言した17。要するにインドは、米国が国際舞台での場所を確保してくれることと引き換えに、米国の影響力行使を「補完」することに合意したのである。この合意の最初の現れのひとつが、ブッシュ大統領の全米ミサイル防衛配備計画に対するインドの前例のない支持表明であった18

 2004年1月、印米は、「戦略的パートナーシップにおける次の段階」合意を発表し、両国が、民生用核事業、民生用宇宙計画、高度技術取引、ミサイル防衛で「協力を拡大する」と宣言した。米政府関係者はこの合意の目的を明らかにしている。ある政府高官は、「合意が目指すのは、21世紀にインドが主要な大国となるのを支援することである。…われわれは、軍事的意味合いも含め、この合意の意味を完全に理解している」と述べた19。「インドを助ける」という米国の新しい動きから導き出される推論を元政府高官らは指摘している。例えば、ブッシュ政権で在インド大使を務めた後、戦略計画担当の国家安全保障顧問補佐を務めたロバート・ブラックウィルは、「中国が民主主義国家インドに対して恒久的な核優位を得ることになるようなやりかたで、アメリカがインドのミサイル能力を阻もうとするはずがない」20と述べている。

 米国の対イスラエル軍事・経済・政治支援、そしてインドの核軍事大国化への支援の提供は、不拡散合意を順守させるためイラクに課した制裁そして戦争と著しい対照をなしている。こうした国々に対する米国の政策は、明らかに、相手が米帝国にとって強力な地域的従属国として果たす意志がある役割によって決定される。

 もう一つ著しい対照をなしているのが、米国の対イラン政策と、対日政策である。米国は、イランにはウラン濃縮もプルトニウム再処理能力も容認されるべきではないと強弁している。そのような施設が国際原子力機関(IAEA)の保障措置のもとに置かれるかぎり、イランのその活動はNPTで容認されているにも関わらずである。米国は、濃縮・再処理能力さえあればイランは事実上の核保有国になってしまうと主張している。また、原子力は、イランにとって不経済であり、核兵器計画の隠れ蓑に過ぎないとも言っている。米国は、イランに制裁を課し、イランに核計画を部分的に放棄させる措置を国連安保理がとることも狙っている。米国がイランに戦争をしかける、あるいはイランの核施設への攻撃にむけて準備を進めていることを多くの人々が恐れている。

 これを、大規模なウラン濃縮能力を持つにいたり、大規模な再処理工場をも六ヶ所村に有する日本と比べてみよう。六ヶ所のウラン濃縮工場は、毎年、150発を超える核兵器が作れる高濃縮ウランを製造する能力をもつ。現在、この製造力を増強する計画がある。この貯蔵プルトニウムと再処理工場により、日本にはそれ以上に多くの核弾頭を製造するというオプションがある。六ヶ所再処理工場が稼動開始すれば、2020年までに日本のプルトニウム貯蔵量は145トンに達すると推測されている21。これは1万発を超える核兵器の製造に十分足りる量である。

 六ヶ所村の再処理工場は、核拡散であり安全上の懸念となっている。規模が非常に大きいため、IAEAの査察も効果がないであろう。推定では、六ヶ所再処理工場の通常の稼動で行方不明となる核物質の量は年間約50キロにのぼると言われているが、これは、核兵器を数発作るのに十分な量である22。使用済み燃料を再処理するよりは貯蔵したほうがずっと安上がりだという事実にもかかわらず、工場の建設は行われ稼動されることになっている23

 もうひとつの問題として、六ヶ所再処理工場と在日米軍基地の危険な関係がある。三沢米空軍基地と射爆場は六ヶ所工場から30キロしか離れていない。裁判の審議からは、六ヶ所工場の設計が戦闘機墜落には耐えられないにも関わらず、政府がその設計を承認したことが明らかになっている。承認理由は、そのような飛行機事故に耐えうる安全性を備えた工場を作れば、建設費用と時間が大幅にかさむからである24

 同時に、日米は軍事協力を強化することでも合意している。米国は、「日本防衛に必要なすべての支援を提供する」と約束しているが、つまりこれは、日本が米国の核兵器とミサイル防衛で守られているということである。日本はまた、米国ミサイル防衛システムのレーダー基地が配備される基地としての役割を果たすこと、アジア太平洋地域における米軍部隊の前方基地となり続けることにも合意している25。明らかに、ここでの目標も、米国の対インド政策と同じで、中国を包囲し圧する上で米国に役立つ軍事同盟国をつくることにある。

 イスラエルやインドと同様、日本に対する拡散の懸念は米国が払いのけてくれているようである。理由はそれが米国の軍事目的にかなうからだ。この類似はさらに深いところまでいく。フランク・バーナビーとショーン・バーニーの警告がこの点を突いているかもしれない。

 「1960年代、ニクソン政権は日本核武装のオプションを検討した。40年たった今、このような展開が合衆国の中期的利益になると考える者が米国政府のなかにいないとしたら驚きである。ちなみに、どう見ても、すでに米国はそれを止めることは出来ないだろうという合図を発しているのだ。」 26



おわりに

 核兵器、軍事基地、軍事同盟は、アメリカ帝国と一体不可分なものである。米国は新しい核兵器を開発し、新しい基地を建設し、主要国とりわけイスラエル、インド、日本との同盟を強化している。

 国民の、そして長年核政策に携わった経験をもつ元政府高官のあいだで高まる反対にも関わらず、核武装したアメリカの将来への固執はあいかわらず続いている。2005年のある世論調査では、アメリカ人の3分の2(66%)がどの国も核兵器を持つべきではないと答えており、希望が持てる兆候として、18歳から29歳の若い世代の6割が広島への原爆投下に異議を唱えている27。同時に、元国防長官で核冷戦の戦士であったロバート・マクナマラは、「私は、いまの米国の核兵器政策を、道義に反し、違法で、軍事的に不必要で、恐ろしく危険であると特徴づける」と述べている28

 世界規模の軍事基地、軍事同盟網に対する圧力はこれほど強くない。ほとんどのアメリカ人はこの問題を知らない。基地は遠く離れた場所にあって、一般人の日々の生活には立ち入らないからだ。軍事基地が置かれている国々の国民が、強い反対の声をあげ、これらの基地の存在に世の中の目を向けさせ、米軍基地がいかに民主主義と地域社会にとって脅威であるかを暴露し、撤去されねばならないことを訴えていかねばならない。

 アメリカの古くて新しい核同盟国と、日本のような核の敷居をまたぎそうな国には、特別の役割がある。イギリスとフランス、イスラエルとインドは、近隣諸国と正常な関係を持つ国になり、世界を平和に導く一助を担いたいならば、核兵器を放棄し米国との同盟から脱しなければならない。日本も同様の道を進むことができる。六ヶ所再処理工場を稼動せず、長期的プルトニウム再処理計画を放棄し、ただ核燃料の貯蔵のみを開始するのである。原子力の段階的停止を開始し、ウラン濃縮計画を止めることができる。こうした段階を踏むならば、拡散の懸念を晴らすことができ、世界規模の核軍縮を強化することになる。日本は米軍基地を閉鎖し、米国との同盟を終わらせ、そうすることで、ほかの国々がこの帝国の束縛から解放される手助けをすることができる。


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脚注

1“U.S. Nuclear Forces, 2005”, Bulletin of Atomic Scientists, January/February, 2005.
2 Chalmers Johnson, The Sorrows of Empire: Militarism, Secrecy, and the End of the Republic, Henry Holt, 2004.
3 www.globalsecurity.org.
4 Alexander Cooley, “Base Politics”, Foreign Affairs, November/December 2005.
5 Matthew McKinzie, Thomas Cochran, Robert Norris and William Arkin, The U.S. Nuclear War Plan: A time for change, Natural Resources Defense Council, 2001.
6 Bill Keller, “The Thinkable”, New York Times, May 4, 2003.
7 Michael May and Michael Nacht, “The Real Nuclear Threat Is To America's Bases,” Financial Times, September 22, 2005
8 Andrew Lichterman, Missiles of Empire: America's 21st Century Global Legions, WSLF information Bulletin, 2003, http://www.wslfweb.org/docs/missiles03.pdf.
9 Michael O'Hanlon, Star Wars Strikes Back, Foreign Affairs, November/December 1999.
10 Avner Cohen, Israel and the Bomb, Columbia University Press, 1998.
11Eric Arnett, “Implications of the Comprehensive Test Ban for Nuclear Weapons Programmes and Decision Making, ” in Eric Arnett, ed., Nuclear Weapons After the Comprehensive Test Ban: Implications for Modernisation and Proliferation, Oxford University Press, 1996.
12 U.S.-Israel Memorandum of Agreement, October 31, 1998, Center for Nonproliferation Studies, Monterey, http://cns.miis.edu/research/wmdme/isrl_moa.htm.
13 Howard Diamond, “New U.S.-Israeli Strategic Dialogue Announced; Israel Acquires New Submarine,” Arms Control Today, July/August 1999.
14 George Perkovich, India and the Bomb, University of California Press, 1999.
15 Perkovich, 1999.
16 Perkovich, 1999.
17 U.S.-India Relations: A Vision for the 21st Century, White House website, http://www.pub.whitehouse.gov/uri-res/I2R?urn:pdi://oma.eop.gov.us/2000/3/21/25.text.1.
18 "India to Hear Out Armitage on NMD", The Hindu, May 11, 2001.
19 US unveils plans to make India 'major world power', Reuters, March 26, 2005
20 Robert D. Blackwill, A New Deal For New Delhi, Wall Street Journal March 21, 2005
21 Frank Barnaby and Shaun Burnie, Thinking the Unthinkable: Japanese Nuclear Power and Proliferation in East Asia, 2005; http://cnic.jp/english/publications/pdffiles/ThinkingTheUnthinkable.pdf.
22 Barnaby and Burnie, 2005.
23 International Critical Review Committee on the Long Term Nuclear Program, Institute for Sustainable Energy Policies, Tokyo, 2005.
24 Rokkasho Reprocessing Plant: Exposure of Inadequate Protective Measures against Aircraft Crashes, http://cnic.jp/english/newsletter/nit99/nit99articles/planecrash.html.
25 U.S.-Japan Alliance: Transformation and Realignment for the Future, Security Consultative Committee October 29, 2005.
26 Barnaby and Burnie, 2005.
27 Will Lester, “Poll: Most in U.S. Oppose Nuclear Weapons,” AP, March 31, 2005
28 Robert S. McNamara, “Apocalypse Soon,” Foreign Policy, May/June. 2005, p. 29-35.