2004年大会INDEX
2004年日本平和大会in佐世保 国際シンポジウムパネリスト発言

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千坂 純


日本平和委員会事務局長

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日本の在日米軍基地再編強化の動きと平和運動

 海外の友人の皆さん、2004年日本平和大会へのご参加、本当にありがとうございます。私は日本国民の平和を守るたたかい、とりわけいま進行している在日米軍基地再編強化とのたたかいについて報告します。


1、イラク戦争の出撃拠点となった在日米軍基地、戦争に加担する小泉政権と日本国民の平和のたたかい

 この間、日本国民はアメリカの無法なイラク侵略戦争に反対し、これを支持し加担する小泉政権の政策に反対してたたかってきました。
 アメリカによるイラク攻撃が、国連憲章を乱暴に踏みにじる侵略戦争であったことはいまや明白です。いまイラクで繰り広げられているファルージャなどでの住民虐殺攻撃は、侵略者が力で反対勢力を掃討しようというものであり、断じて許せません。直ちに中止することを求めます。
 ところが日本の小泉政権は、イラク戦争をいち早く支持し、いまも支持しつづけています。そればかりか、在日米軍基地がイラク戦争の出撃基地となることを容認してきました。 
イラクへの先制攻撃の火蓋を切ったトマホークミサイルは、横須賀から出撃した米艦船によって発射されました。横須賀を母港とする空母キティホーク、三沢のF16戦闘機、嘉手納のF15戦闘機は、空爆作戦の一翼を担いました。ここ佐世保は米海軍の弾薬・燃料の補給拠点ですが、補給・輸送艦が頻繁に出入りし、この基地の弾薬がイラクの民衆の上に降り注いだのです。沖縄からは4000人もの米海兵隊が現在イラクに投入され、ファルージャなどでの民衆虐殺作戦に参加しています。これを運んだのは、佐世保の強襲揚陸艦です。この8月に沖縄の普天間基地から飛び立った米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落するという重大事故が起こりましたが、これもイラク派遣命令が出る中での過密な整備点検作業中に起こった事件です。普天間基地からは約40機のヘリがイラクに展開しています。このように、在日米軍基地はイラク戦争の重大な出撃拠点となっているのです。日米安保条約は「極東の平和と安全」を名目に米軍基地を日本におくとしており、これさえも逸脱した軍事行動であることは明白です。しかし小泉政権は一切抗議しませんでした。
 そればかりか、小泉政権はアメリカの要求に応えて、戦後初めてイラクという戦闘地域に武装自衛隊を派兵しました。これが一切の戦力と武力の威嚇・行使を禁じた日本国憲法第9条に違反する行為であることは明白です。さらに政府は、8月には武力行使を目的とし抵抗勢力の掃討作戦を繰りひろげている「多国籍軍」への参加を国会にもはからず強行しました。こうしてイラク占領軍の一部となった自衛隊に対するイラク民衆の敵意が高まり、自衛隊宿営地への砲撃が相次ぎ、撤退を求める民衆のデモが起こるまでになっています。また日本人のNGOやジャーナリストさえも攻撃の対象となる事態が生まれ、10月には日本人青年が殺害される事態さえ招きました。アフガニスタンでの米軍などの軍事行動を支援するためにインド洋に派遣されている自衛隊の補給艦が、実際にはイラクで軍事活動を行う米空母などに補給を行っていることも重大です。
 このように小泉政権は、イラク戦争への支援を通じて、日本国憲法の平和原則を踏みにじる、海外派兵と米軍支援を拡大する重大な動きを進めてきました。また一方では、米政府が日本周辺で戦争を始めた場合、「武力攻撃が予測される事態」だとして自衛隊を参戦させて米軍を支援し、自治体、民間企業、国民をこの活動に協力させる有事(戦時)法制を強行しました。
 そして現政権を構成する自民党、公明党、そして野党第1党の民主党は、いま、大手を振って海外でアメリカと自衛隊がいっしょに戦争できるようにと、憲法9条に焦点をあてた憲法改悪の動きを競い合っています。これが「憲法9条は日米同盟関係の妨げ」(アーミテージ国務副長官)という、アメリカの要求に応えた動きであることは明白です。
 しかし私たちはこうした動きに対し、反対の世論と運動を発展させてきました。
世界の人々と共に日本でもイラク戦争やめよの運動が繰り広げられ、反戦運動はこれまでにない市民的広がりをつくりだしました。こうした中でいまも国民の7割がイラク戦争に反対という世論が生まれています。自衛隊の派兵期限は12月14日に切れますが、この延長に反対の声も世論調査で6割を超えています。小泉政権の対米追随姿勢に対する批判は広範な人々に広がり、それが自民党の総選挙での後退に反映しました。憲法9条守れの世論は常に国民多数を占めていますが、ノーベル文学賞受賞者の大江健三郎氏はじめ著名9氏による「9条の会」発足は、広範な人々によって歓迎され、共同の輪が各地各分野に急速に広がっています。
 米軍基地についても、基地の被害や米軍の横暴に対する住民や自治体の要求にもとづいた運動が発展してきています。特に米軍基地の集中する沖縄では、米軍ヘリ墜落事件を機に、普天間基地撤去、名護市辺野古への基地の移設反対、基地の移設・増強路線(SACO路線)見直しの世論が急速に広がっています。
 

2、在日米軍基地再編強化のねらいと国民との矛盾、たたかいの展望

 こうしたなかでいま重大なことは、在日米軍基地の重大な再編強化がすすめられようとしていることです。そしてこれをテコにしながら日米安保条約の新たな大改悪が図られようとしていることです。
いま全世界規模で進められている米軍再編は、ブッシュ政権の先制攻撃戦略をより効率的に、世界各地で行えるようにすることをめざしたものです。このなかでの日本における再編強化のねらいの第一は、アジア・太平洋全域で戦争を遂行する司令部機能を日本に集中させると共に、世界中に戦力を投入する攻撃力を強化することです。神奈川県座間基地への米陸軍第一軍団司令部の移転、東京・横田基地の第13空軍司令部への統合などが検討されていると言われていますが、いずれもアジア・太平洋全域はじめ地球規模で作戦をすすめる任務を持った司令部です。
 同時に、沖縄での新たな海兵隊巨大航空基地や巨大軍港の建設計画、都市型戦闘訓練施設の建設、佐世保の強襲揚陸艦を中心とした海兵遠征攻撃群の編成、横須賀への08年の原子力空母配備計画、攻撃ミサイル装備のイージス艦の日本海配備、三沢、嘉手納などの戦闘機部隊の航空遠征軍への編成と長距離打撃力の強化など、地球規模での「殴りこみ」能力の強化がすすめられています。
 これらはとりわけ、アメリカの利害がかかった中東から北東アジアに広がる地域にいつでも戦力を投入できる「中軸(ハブ)基地」として、在日米軍基地を強化しようとするものです。
 在日米軍基地再編強化の第2のねらいは、基地の共用化も含む米軍と自衛隊との一体化です。沖縄の海兵隊部隊の一部本土移転、米軍横田基地への航空自衛隊司令部の移転、米軍嘉手納基地への那覇航空自衛隊部隊の移転などが検討されているといわれています。このねらいは、自衛隊を米軍と「共に訓練し、共に出兵し、生活を共にする」従属軍として、いっそう強化するものです。
しかし、こうした方向は国民世論ともアジアの平和の流れとも矛盾するもので、未来あるものではありません。まずそれは、今でさえ異常な「米軍基地国家」の状況をさらに悪化させるものです。
 日本に置かれた米軍基地は、米本国以外では唯一海外に配備された米空母戦闘軍や海兵隊師団など、アメリカの「殴りこみ部隊」が中心です。他の同盟国が行う米軍支援経費総額の1・6倍もの米軍支援によって支えられ、首都圏はじめ全国各地に置かれている米軍基地は、地位協定によって治外法権状態におかれ、周辺住民に深刻な被害を与えています。その被害は、在日米軍基地がイラク戦争などの出撃基地となるなかでいっそう深刻になっています。普天間基地でも厚木基地でも騒音被害が増大しています。市民生活と「戦争態勢」の米軍基地はいよいよ「共存」できなくなっています。基地の再編強化は、こうした基地の危険と被害をいっそう深刻なものにするものです。
 第一に、新たな基地を提供し、被害を拡散し、基地機能を強化する計画です。岩国へのNLP移転や沖縄海兵隊の本土一部移転は、新しい機能強化された基地を提供するという点でも、被害を拡散・拡大するという点でも、沖縄基地や厚木基地の基地被害を抜本的に改善することや返還にも結びつかないという点でも、世界でも異例な「基地国家体制」をいっそう強化するものになっています。
 第二に、日本国民の多数はイラク戦争に反対し、米政権に追随する日本政府の姿勢に対して批判の声を強めています。ところが基地の再編強化は、世界各地で米軍がおこなう先制攻撃・予防戦争の司令・出撃拠点になるということです。これは国民との矛盾をいっそう深めざるをえません。
 こうした根本的な弱点をもっている基地の再編強化の動きは、基地をめぐるたたかいを発展させる新たな条件を生み出しています。座間基地を抱える相模原市、座間市はじめ再編強化の対象とされた自治体の多くが、いち早く反対の声をあげ、日米政府当局の思惑を狂わせています。とりわけ沖縄では、名護の新基地建設を8年間食い止めてきた市民のたたかいをはじめたたかいの積み重ねの中で、世論の大きな変化が生まれています。これを土台に、普天間基地撤去・移設反対の運動の先頭に立つ市長が誕生し、参院選でも基地撤去・移設反対の候補が勝利するなど、政治の舞台でも変化が生まれています。
 新しい条件を生かし、自治体ぐるみ、住民ぐるみの基地強化反対運動を発展させることは可能であり、この平和大会を通じて運動を大きく発展させたいと思います。


3、米軍基地再編強化、日米安保の大改悪を許さず、安保条約廃棄、憲法9条守るたたかいは、日本国民の国際的責務


 この在日米軍基地再編強化と一体のものとして、自衛隊の海外派兵拡大と再編強化がすすめられていることは重大です。12月初旬に予定されている「防衛計画の大綱」見直しでは、自衛隊の中心任務に海外派兵を公式に位置づけ、「国際的安全保障環境の改善」は“自衛”の課題だなどというとんでもない軍事介入正当化の論理を持ち出しながら、そのための法制や装備、体制を強化しようとしています。
こうした在日米軍と自衛隊の再編強化は、日米安保条約の「極東」の範囲をはるかに超えて地球規模で戦争をすすめる米軍の司令・出撃基地に日本をし、この米軍と一体となって世界規模で自衛隊が共同作戦ができる体制をつくろうとする、安保条約の新たな「大改悪」というべきものです。
 しかしこうした動きの中で、日米軍事同盟が「日本を守る」ものでなく、アメリカの戦争に参戦するための対米従属の侵略的軍事同盟であることが、いっそうわかりやすくなり、日本国民の世論にも変化が生まれてきています。今年の毎日新聞1月15日付の世論調査では、▼日米安保条約について、「将来も安保条約を維持」が37%に対し、「安保条約でなく友好条約に」が31%、「安保条約をなくし中立に」は14%で、安保廃棄が多数を占めました。また、▼日本の安保・外交政策については、「国連重視」が76%、「対米協調」は13%にすぎません。
 いま、日米軍事同盟の危険な展開は、自衛隊の海外での武力行使まで求めるようになり、憲法9条と並存できないところまですすんだため、いよいよ憲法改悪の衝動を強め、改悪を政治舞台にまでのせつつあります。憲法改悪に反対する広範な動きが草の根で広がっていますが、平和を愛し、憲法改悪の動きに心を痛める多くの国民もまた、安保問題に直面せざるをえません。ここにも、日米軍事同盟反対の声を国民多数派に発展させる新たな客観的条件が生まれています。
 国際的にみても、非同盟諸国、EU(欧州連合)、ASEAN(東南アジア諸国連合)、イスラム諸国会議、中南米などで、イラク戦争反対にとどまらず、国連憲章にもとづく平和秩序をめざす動きが発展しています。とくに東南アジア友好条約への加盟国の増大や「軍事同盟でない安保共同体」をめざすASEANのとりくみなど、アジアでの平和秩序をめざす動きには、顕著な発展がみられます。いまやアメリカと軍事同盟を結んでいる国の中でも、海外侵略のための遠征軍基地を置いているのは日本だけです。世界とアジアの動きからみても、日米軍事同盟にしがみつき、米軍基地の再編強化など対米追従をすすめる日本は異常な存在であり、孤立化の道をすすむものです。
 在日米軍基地の再編強化、日米安保の大改悪、そして憲法改悪のたくらみは、何よりもアジアと世界の諸国民に刃を向け、戦争の危険を強めるものです。これを阻止し、米軍基地撤去、日米安保条約廃棄を実現し、憲法の平和原則が本当に生かされる日本をつくることは、日本国民の国際的責務です。この平和大会を機に、日本全国でこうした運動を発展させる決意を表明して発言とするものです。