ハーバート・ドセナ
フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス
基地を閉鎖し、帝国を打倒しよう
お招きくださった日本平和委員会にお礼を申し上げます。米軍のプレゼンスが落とす影響からの自由を求めて闘っている皆さんとご一緒でき、いつも光栄に思います。
私たちは暗い雲のもとに集まっています。
今日、私はますます過去へと背を向けつつある日本にやってきました。この2年間に、過去50年間でおそらく最も危険な日本の軍事政策の変化が起こりました。私の国では、祖父母の年代の人たちが、未だに日本の占領時代の過酷な経験について語っています。私の世代は、日本と言えば、セガ、ウルトラマン、北野武を連想します。これは、いかに日本に対する認識がこの数十年変わってきたかということを示しています。日本兵によって従軍慰安婦として虐待された祖母たちに関するニュースを除けば、私たちフィリピン人は日本から戦争を連想することはありません。そのような時代は過ぎ去りました。日本軍のイラクへの派兵と憲法9条を廃止しようとする動きとともに、日本は再び脅威となるのでしょうか。
もう二度と
1952年、みなさんの国にとって新しい時代の幕開けとなった年、みなさんは事実上「もう二度と」と誓ったのです。ノーモア南京大虐殺。ノーモア“従軍慰安婦”。ノーモア大東亜共栄圏。ノーモア日本帝国主義。ノーモアヒロシマ、ナガサキ。(これらの言葉と名前を何度も繰り返すことは重要です。−南京、従軍慰安婦、日本帝国主義、原子爆弾− これらを忘れさせようという動きがあるからです。)
近年、ご存知のように、日本の平和憲法に対して容赦ない攻撃がかけられています。アメリカと右翼勢力が、もう一度戦争を受け入よと日本を駆り立てています。最近、彼らの動きは今までになくうまくいっているようです。例えば、1945年の自衛隊と呼ばれる体制の設立は、大変大きな世論の反対を受けました。しかし現在では与えられたものとして、常に存在していたかのように認識されています。1960年代、戦地に自衛隊を送るという決定がなされていれば、大衆の大規模な反対が起こっていたでしょう。しかしながら2001年、自衛隊は戦争に加担するためアフガニスタンに軍艦を送りました。そして昨年、自衛隊はイラクへ派兵されました。60年以上前、若い日本兵が満州、マレーシア、フィリピンへ行ったように。私たちは不気味な時代を生きています。
誤った場所で誤った時に
私たちが今日この場に集まっているときも、ファルージャの人びとは死体を拾い集めています。先週、15,000人の米軍兵力がファルージャの街を包囲し、爆撃や砲撃を浴びせました。報道によれば、米軍は親切にも、“二次被害”を減らすため2000ポンドではなく1000ポンドの爆弾を使用したということです。真っ先に破壊された建物の中には病院がありました。殺された“テロリスト”のなかには、瀕死の人々を治療する医者もいたのです。
ファルージャに行く前に、ひとりの兵士が次のように言いました。「我々は地獄の犬を放すんだ、彼らの紐を解く・・・何が待っているのかやつらは知らない。地獄が待っているのだ。もしそこに民間人がいるのなら、彼らは誤った時に誤った場所にいたということだ。」赤十字の当初の推定によれば、少なくとも800人の人びとが“誤った時、誤った場所”にいたことになります。最近の科学的な調査によれば、この戦争の開始以来、十万人以上のイラク人が、自分の国にいながらにして、“誤った時、誤った場所”にいたことになります。
私たちにできることは
この数を理解するため、佐世保市の人口25万人の半分が殺されたと想像してください。この割合を、日本の総人口に当てはめれば、65万人の日本人が殺されるのと同じことになります。これは、1945年広島と長崎の原爆投下により命を落とした人びとの3倍から4倍の数です。そしてこれはほんの1年間で起こったことです。もしイラクがあまりにも遠い外国だと感じるならば、以下のことを想像してください。もしあなたの居間で、10万人が殺されたらどうしますか?そしてこれからさらに殺されていくとしたら?何もせず、いつもと変わらぬ生活をすることは、居間で誰かが殺されている間、ただ座ってテレビを見ているのと同じことなのです。
イラクの侵略と占領は、皆さんのご両親や祖父母の年代の人たちが、第二次世界大戦後満州やマニラから戻り、実現しようと誓った夢から私たちを遠く引き離すものです。イラクの侵略は、戦争のない世界、正義と平等を基礎にした国際秩序、尊重と主権の上に成り立つ国境を超えた関係を築くことをますます困難なものにしています。もしアメリカがイラクで成功をおさめれば、アメリカは世界に対して自らの意思を強要するためイラクの石油を支配し、私たちを支配するためその力を使うでしょう。アメリカのイラクでの成功を許すことは、嘘に基づき戦争を始めてもよい、国際法を踏みにじってもよい、他国の資源を収奪してもよい、その過程で十万人を殺すことになってもよいと言っているのと同じことです。この戦争が続くのを許すならば、私たちはどのようにして、未来の戦争を阻止する希望をもてばいいのでしょう。どのように“もう二度と!”ということができるのでしょうか。
したがってイラク戦争はイラク人にとって正義のない戦争です。われわれの希望に対する戦争であり、私たちの夢を破壊するものです。私たちは、イラク人の殺害をやめさせるためにできることをしなければなりません。それはイラクの人々がかわいそうだからということだけでなく、私たち自身を守るために彼らを守らなければならないのです。私たちの夢を守らなければなりません。このことは私たちのたたかいでもあります。ですから、このたたかいで、ただ座して傍観したり、嘆き悲しむだけではいけないのです。
私たちは戦争反対の世界的な行動に参加しなければなりません。そして私たちは自分たちの国でその運動をつくらねばなりません。たとえば、世界の運動のなかにおける日本の運動というふうに。そして世界平和と正義というひとつの目標に向けた共同行動にともに取り組みましょう。
以下は日本の平和運動と、世界の平和運動全般へのいくつかの提言です。
イラクでのアメリカとその同盟軍の蛮行を暴き、指弾しなければならない
イラクの占領軍による都市の完全破壊、何千人もの市民の虐殺、結婚式の空爆、囚人の拷問、包囲された子供たちに水を与えないなど、あらゆる戦争犯罪行為を可能にしている理由のひとつは、世界がそれらに関心がないように見えるからです。私たちは再び街頭に出て、アメリカ大使館の前で集会をし、ビラをまき、プラカードや横断幕を掲げ、演説をし、新聞に投書するなど、声を上げなければなりません。私たちは「イラクで起こっていることは受け入れられない、ただちにやめよ」と叫ばなければなりません。ファルージャ包囲のあと、シドニーからソウルまで、ロンドンからイスタンブールまで世界を反戦運動が再び駆け巡りました。私たちはその運動を、占領の残虐性を暴露するために市民的不服従や直接行動によって、毎日、毎週続けなければなりません。
アメリカは、世界の良心という侮りがたい敵に、依然として敵対しています。しかしアメリカの占領の主要な弱点は、世界の大多数の人々がそれを支持していないことです。世界の圧倒的世論は、侵略と不正義に嫌悪感をもっています。アメリカが、あたかも10万人のイラク人が殺害されたことが許容範囲のこと、普通のありふれたことであって、コメントしたり怒ったりすることではないと人々を無感覚にさせるアメリカのたくらみとたたかわねばなりません。私たちは声を上げ、アメリカ軍がさらに10万人を殺害することに二の足を踏ませるために、残虐行為を暴露し続けなければなりません。
イラクの暴力と無法への唯一の解決策は、民主主義を擁護しイラク人の意思を尊重することだといい続けなければなりません。そして、彼らが望んでいることは、明らかです。最近アメリカ自身が行った調査でも、80%、もしくは過半数のイラク人が外国軍の撤退を望んでいます。占領と戦っている人々を「テロリスト」と呼ぶようなプロパガンダとたたかわねばなりません。実際、それらの多くは、地域社会に支援されている普通のイラク人です。自決権を主張しているだけなのです。私たちは、彼らの政治路線やイデオロギーを必然的に支持するからではなく、彼らが本来自由になる権利をもっており、占領が違法であると認識するからこそ、イラク人を支援すべきなのです。
日本の自衛隊をイラクから撤退させなければなりません
アメリカを中心としたイラク占領の第二の弱点は、外国の派遣軍の規模が減少していることです。アメリカは、イラクの人々による抵抗の高まりに直面して、現在イラクに展開しているよりも多くの軍事力を必要としています。しかし、米軍は現在、世界中に過度に配備されているので、それに対応することができません。また国内で徴兵制は大変人気がないので、アメリカ国民に強制的な徴兵制を課すことに大変消極的です。
このために、アメリカ政府はできるだけ多くの国から軍隊を派遣してもらおうとやっきなのです。にもかかわらず、外国の政府は次々とアメリカの求めを拒絶しています。30からスタートした「有志連合」なるものは、今では21カ国になり、そのほとんどの国はごくわずかの兵力しか派兵していません。7月には、ごく平凡なフィリピン人トラック運転手の命を救うために、フィリピンは軍隊を撤退させました。二週間前、ハンガリーとオランダもイラクにこれ以上の兵力を派遣しないと宣言しました。もし日本が12月以降、自衛隊の派遣延長をしなければ、有志連合にとって大打撃となるでしょう。
したがって、私たちは派遣延長反対の世論を大きくするために、全面的な教育運動、政治運動を展開しなければなりません。日本の自衛隊はイラク再建に役立っていないと声を上げ続けなければなりません。占領軍の一部として、自衛隊はイラク人による国の再建開始を妨害しています。日本では自衛隊は、人道支援や復興支援を行っているわけではありません。みなさんの首相自身が「自衛隊は軍隊である。自衛隊を軍隊でないとするのは一般常識に反する」と言っているではありませんか。
ですから、占領軍の一部として日本の軍隊は、10万人以上のイラク人殺害の共犯であり、先週のファルージャ総攻撃に責任があるのです。イラク人自身は、占領軍を自分たちを助けてくれるものではなく、自分たちを殺し、支配するためのものだと思っています。私たちは日本人の戦争を嫌悪する心にうったえ、日本人の名において一人も殺されてはならないと要求しなければなりません。もし日本人が本当にイラク人を支援しようと望むなら、最良の方法はイラク人が望むことを尊重すること、つまり、自衛隊が撤退することです。
イラク占領を長期化させるために日本の納税者のお金を使わせるべきではありません
アメリカのイラク占領の三番目の弱点は、イラク占領と「復興」のための資金がないことです。戦争は安くはありません。アメリカは歴史的な財政危機に直面し、戦費の支出をこれからもより渋るでしょう。そのため、アメリカ自身の資金をより砲弾や爆弾に使うことができるように、戦費を他の同盟国が支出し、負債を肩代わりするよう求めてくるでしょう。アメリカはこれらの資金をイラクにおける自分たちの目的を達成するために使いたいと思ってきました。独立、主権、威厳といった、食べられないものをイラク人が幾分忘れてくれることを願って、イラク人に金やインフラ計画、NGOへの資金援助、復興計画、奨学金などを、ばらまきたいと思ってきました。
しかし、軍の派遣要請にみられるように、アメリカの財政はほとんど空っぽです。世界銀行によればイラクの再建に350億ドルが必要だと試算されていますが、130億ドルしか約束されておらず、実際に支払われたのはわずか12億ドルです。どの国が一番お金を出しているでしょうか?日本です。日本は支出が約束された額の三分の一にあたる50億ドルを出す約束をしています。それに加えて、日本は国内に駐留している4万の米軍兵力の維持のために、一人当たりの年間15万ドルを払っています。在日米軍の多くがイラク戦争に参加しています。その費用がどこからでているのでしょうか、それはみなさんのポケットからです。皆さんのお金を出しているのですから、人々を殺し、他国を占領するためにそのお金を使うなと要求する権利がみなさんにはあります。みなさんは、その総額は連合軍によって管理されるべきでなく、アメリカではなく、イラク人によって直接選ばれた正当な主権をもつ政府によってのみ支出されるべきであると要求できるのです。
日本と世界の米軍基地を廃棄しなければならない
イラク戦争は、日本と世界中に米軍基地が何のために散在しているのかを明らかにしました。戦闘に参加した兵力や、イラクで使用された装備は、日本やクウェート、ディエゴガルシアなど、世界中の米軍基地やリリーパッドに駐留していたり、あるいは通過してきたものです。イラク国内に、米軍は14の軍事基地を建設しています。
それらの基地の目的は他の国にある基地の目的と同じようなものでしょう。イラクの石油にアクセスし、地域に覇権を示し、イラクの将来のいかなる政府も従属させるためです。世界のあらゆる場所に軍事基地を張り巡らす計画は、アメリカの軍事支配を永続化させ、イラクで明らかになったように不公正な国際秩序を永続化させるためのものです。
ですから私たちは、軍事基地自体に反対するだけでなく、それを可能にしている支配のシステムに反対しなければなりません。私たちは軍事基地が迷惑だとか、騒音があるからというだけでなく、イラクで見られるように軍事基地は殺りく、破壊と支配のために使われているからこそ基地を閉鎖しなければならないのです。私たちがともに勝利する感覚を得るために、すべての国がその国の米軍基地を閉鎖していると想像してみてください。世界中の米軍基地閉鎖を進める運動に参加することを、皆さんに呼びかけます(詳細はビラを参照してください)。
私たちは日本の軍国主義の復活に反対しなければならない
イラクへの違法な侵略と戦争行為に日本が積極的に関わっていることは、皆さんの国日本の際軍事化の進行なしには不可能です。自衛隊のイラク派兵は、この進展の最近の最も深刻な兆候です。自衛隊への規制は長年にわたって少しずつ、いつの間にか緩められてきました。しかし、戦闘地域への実際の派兵ほど目に余る行為はありません。みなさん方の憲法9条は、公式には廃止されたわけではありません。しかし、その意味するところを徐々に失っています。
それを取り戻すのに手遅れということはありません。憲法9条を取り戻すために、人々の恐怖をあおり、操作するたくらみに反撃しなければなりません。恐怖は人々に何でも受け入れさせるために使われます。そして超大国の覇権の時代に生き残り繁栄するためには、その大国の傘に入ることがいいという議論や、代案よりも幾分その方がよい、私たちが影響がを及ぼすことのできるだろうとの期待を打ち破らなければなりません。イラク侵略は、再度アメリカが慈悲深い指導国であるという神話を打ち砕きました。同時に私たちは、アメリカの単独主義に対抗する選択肢は、日本が1940年代にアジア諸国に対してそうしたような、自分たちの狭い領土を支配するような地域の大国として登場することであってはなりません。
このような提案は少しひるんでいるように思われるかもしれません。しかし、一瞬たりとも私たちは一人であると思ってはなりません。私たちは世界をまたにかけ、共同し、力を強めている運動の一部なのです。2003年2月15日には、私たちは世界中で1千から1千5百万の人々が街頭に出て侵略を批判した行動ですでに私たちにできることを示しています。この多様な運動は、共通の戦略を作り、現在の世界秩序への代案を作り出すために、来年の1月、ブラジルのポルトアレグレの世界社会フォーラムに再び集まります。
私たちは負けるわけにはいきません。日本の平和主義はそれ自体、戦争の惨禍から勝ち取られたものです。今日までそれが耐え抜いてきたこと自身が絶え間ない警戒の結果です。歴史的な反戦運動にもかかわらず、私たちはイラク侵略を止めることはできませんでしたが、イラクでアメリカが思うように成果をあげることを困難にしています。フィリピンでは、1992年にフィリピン上院が多数の国民の支持を背景に、90年にわたって存在した米国軍事基地を撤去したあの輝かしい瞬間を常に思い返します。もちろん、米軍基地はちがった形で戻ってきました。しかし私たちは、勝利が手の届かないところにいってしまったとは思っていません。ブッシュ再選の直後、アメリカの平和運動家が詩を引用して、「悲しんではいけない、運動を進めるのだ!」と言ったように。
ありがとうございました。すべてのみなさんに力を!
ハーバート・ドセナ氏は、国際政策研究機関のフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス(www.focusweb.org)の研究者であり活動家である。彼は国際イラク占領監視センター(www.occupationwatch.org)の一員として、侵略後2ヶ月イラクに滞在した。