2000年大会INDEX

2000年日本平和大会in沖縄国際シンポジウム パネリスト発言

line

ジョゼフ・ガーソン


アメリカフレンズ奉仕委員会

line


アジア・太平洋におけるアメリカの覇権主義と沖縄の現瞬間

 日本平和委員会とこの大会を組織された皆さんにお礼を申し上げます。この大会に参加することができとても光栄です。沖縄を占領している国からやって来た者にとっては、誰であれ、自由と真の人間の安全保障をめざすみなさんのたたかいに意義ある貢献をするということは、身の引き締まる、道義的に困難な挑戦でもあります。
 私は、6月の下旬に沖縄に短期間滞在し、当時組織されていた行動の支援をしたり、G8サミットの初日に沖縄タイムズに掲載する米軍基地撤去の意見広告の準備をしていました。嘉手納空軍基地を包囲する人間の鎖行動の日まで滞在できなかったことが心苦しかったのですが、みなさんは、勝利しました。沖縄から、米軍と基地は出て行け!の抗しがたいメッセージが広げられたのです。
 前回私が沖縄に来た1996年、反対運動は頂点に達していました。その時、そして今回もそうですが、沖縄の米軍基地の広大さ、あらゆるところに存在している状況、日常的に県民に与えている危険、米軍が住民の生活、文化、発展を押さえつけているやり方に、衝撃を受けました。米兵による少女の拉致・暴行が、いかに沖縄全体の痛ましい長く押し殺された記憶をよびさましたかということが、深く胸につきささりました。
 また、こんなことは「二度と許さない」と決意した女性たちから、「命どぅ宝」とくっきりと書かれたはちまきを巻いて抗議する地主の人たちまで、幅広い人々の抵抗に深く感動しました。私は、数十年にわたる沖縄の政治的抵抗によって、何がかちとられてきたかを理解するようになりました。沖縄の県民投票で92%の人々が、米軍基地の撤去を求めたということは、まったく当然のことでした。
 私はまた、1996年、東京で、アメリカと日本の高官にインタビューする機会を得ました。彼らは冷淡なシニシズムをもって、沖縄県民と彼らの支援者たちをなだめようとしていました。彼らは、米軍の撤退ではなく、沖縄における「米軍の足跡の大きさ」を縮小することによって、米軍基地への反対を社会の中心問題からはずし、隅へ追いやることができると信じていました。このように、SACO(訳注:沖縄における施設および区域に関する特別行動委員会)報告は、沖縄の米軍の駐留を再強化することしか提案しませんでした。彼らは、提案されている「ヘリポート」計画、すなわち、沖縄北部のさらなる軍事化とアメリカの外国への軍事介入を「200年間」続けるための、巨大な新しい空軍基地を建設することについて黙認しました。その新しい基地が、朝鮮が再統一した後も長く東アジアで米海兵隊を維持することにいかに関係しているか、墜落事故を起こしたV-22オスプレイの危険な設計上の欠陥についても、何も指摘しませんでした。
 政府が太田知事の放逐を図ったこと、名護市民の意思を欺くために政治的操作が行われたこと、日米両政府が10億ドルの「開発」資金や夏のG8サミットでなされた暗黙の約束で沖縄県民を買収しようとするのを見ているのは痛ましいことでした。それは、古くから使われた分断と支配の手法ですが、沖縄県民の自尊心、尊厳、忍耐の真価を理解できていません。それゆえ、そのやりかたは最終的には失敗に終わるでしょう。


アメリカの地球的アジェンダ

 米軍によるひきつづく沖縄の占領と日米安全保障条約は、アメリカの世界戦略の構成要素です。それについて、私は、アジア・太平洋で高まるアメリカの戦争準備の問題に入る前に、簡単に論じたいと思います。
 冷戦の終結から10年、アメリカの軍事費は、冷戦時の水準と変わりません。今日、国防総省の予算は、アメリカの同盟諸国の軍事予算の総計を上回り、また、アメリカに次ぐ軍事費大国9カ国の軍事予算の合計をも上回っています (1) 。国防総省の研究開発予算だけをとってみても、他のどの一国の軍事予算よりも多いのです!
 ソ連の崩壊にかかわらず、アメリカとそのヨーロッパの同盟国は、NATOの拡大を追求し、NATOのヨーロッパを越えた「域外」の戦力投入能力を高めています。世界での覇権を強化するために、アメリカは新世代核兵器を設計し配備しています。そして、自国の核兵器の使用の可能性を高めるような新たな核戦争ドクトリンを採用しています。そして、ご存知のように、アメリカの外国駐留軍は、アジア・太平洋全体、そして世界中の軍事基地や施設に駐留しつづけています。
 最近の選挙期間中、明らかに森首相と同等の知性を持ちあわせているブッシュ次期大統領は、アメリカの空前の軍事力と脅威を維持するために何をすべきかを説明しました。「私が若くて、世に出ようとしていたとき、世界は危険な場所であり、われわれは『彼ら』が誰であるかを正確に理解していた。『われわれ』対『彼ら』の図式があり、『彼ら』が誰かは明らかだった。今日、誰がその『彼ら』であるかは明確ではない。しかし彼らがそこにいることはわかっているのだ。」(2)
 幸運にも、ブッシュは自分の限界を認識していますが、そのマイナス面は、それを補うために、自分のまわりに、父親の大統領時代や、レーガン、ニクソン政権時代の冷戦の戦士、すなわち、キッシンジャー、シュルツ、スコウクロフト、パウエル、ディック・チェイニー、コンドリーザなどを置いたことでした。一方、アル・ゴアと彼の中心的な外交・軍事アドバイザー、レオン・フュースは、ブッシュを上回るほどの軍事費増加を訴えました。
 先の大統領選では、外交政策と軍事問題については、ブッシュとゴアの間には、わずかな違いしかありませんでした。ブッシュは、日米軍事同盟をより重視すること、中国は「戦略的パートナー」というより「戦略的競争者」であることを、より明確に述べました。にもかかわらず、両候補とも、中国との正常な通商関係の恒久的な延長を支持しました。弾道ミサイル防衛の最終的な配備という点では、たとえそれがABM条約の廃棄を意味するものであっても、両者の考えは一致しています。2つの核超大国の核戦力を各々1000まで削減しようというロシアの提案に対して、ゴアは、アメリカは少なくとも、広島型爆弾の約5万倍の破壊力に匹敵する2500発の核弾頭を維持しなければならないと主張しています。ブッシュは一定程度の一方的な軍縮措置をとる意向を示唆していますが、彼の父親のやったことと同様、アメリカの核による支配を弱めるようなことには手をつけることなく、偶発的核戦争の危険を減らすような限られた措置にしかならないでしょう。そして、ブッシュがゴアに対し、軍事的決意があるのかと挑戦したとき、ゴア副大統領は、クリントン・ゴア政権の決意は、イラクの上空を飛ぶ米軍機や経済制裁体制を通じて日常的に示されていると、得意げに語りました。その制裁が、毎週5000人ものイラクの子供たちの命を奪っていると推定されているにもかかわらず。
 一つの重要となる新たな進展は、元高官や学者の委員会によって準備された報告がこの秋出されたということです。「この報告は、より強力な日米同盟をよびかけるために、共和党、民主党両党の努力を示すもの」であり、日米両国の政策の大幅な変更を提案しています。新戦争ガイドラインを実行しやすくし、日米安保を崩壊させるような政治的障害をとりのぞくために、報告は、日本国憲法を「集団的自衛」を認めるよう改定することを「歓迎」しています。SACO報告を支持する一方で、それは、数は明記されていませんが、現在沖縄や日本の本土に駐留する米軍を一部分、グアム、オーストラリア、フィリピン、あるいは、アジア・太平洋の他の地域に最終的には再配備することを意味する、「施設」と「訓練」の「分散化」をよびかけています(3)。
 2、3年前、三者委員会(Trilateral Commission)の理事であり、カーター大統領の国家安全保障顧問であるズビグニュー・ブレジンスキーは、驚くべき本を発行し、その厄介なほどの率直さのゆえに、アメリカの外交政策機構内の人々からきびしい批判を受けました。その並外れた著書の中で、ブレジンスキーは、アメリカ帝国がどのように機能しており、その勢力圏を維持、拡大するためには何がなされるべきかということをかなり詳しく論じています。重要な点ですので、すこし長くなりますが引用します。あまりに重要すぎて、無視できないのです。
 ブレジンスキーはこう述べています。「アメリカのグローバルシステムは、敵の取り込み術に重点を置いている(敗北を喫したライバルのドイツ、日本、最近はロシアでさえもそうだが)…これは…外国の対米従属エリートたちに対して間接的に影響力を行使することに大きく依存している。」「アメリカの覇権は、コンセンサスを作りだし、力と影響力における不均衡をあいまいにすることをねらった、互いに入り組んだ制度や手続きからなる複雑な機構を有している。アメリカの世界覇権は、このようにして、文字通り世界中に広がる同盟と連合からなる精巧なシステムによって支えられている。」(4)
 この点で、ブレジンスキーは、日米同盟、NATO、国連、IMF、G8、世界銀行、世界貿易機構(WTO)を見ろと促しています。ブレジンスキーは、「アメリカの世界的覇権は、以前の帝国を偲ばせる…アメリカは世界の外洋と海をすべて支配するばかりでなく、…アメリカの駐留軍はユーラシアの西と東の両端にがっちりと配備され、ペルシャ湾をも支配している。アメリカの配下の国々や属国は、ユーラシア大陸全体に点在している。」(5)と続けています。
 ブレジンスキーは「アメリカの戦略目的は、世界の覇権を握ることであり、アメリカは、ヨーロッパ、アジア大陸において、自国の地位への脅威になるようないかなる大国の登場も許すことができない」と説明しています。アメリカの総合参謀本部が最近発表した新戦略軍事ドクトリン「ジョイント・ビジョン2020」でも同じことが述べられています。統合参謀本部は、中国、ロシア、日本、フランス、ドイツなどの国々を「潜在的な同等の競争国」と呼んでいます。これまで打ち出されたアメリカの軍事ドクトリンはどれも、アメリカの政策の最優先課題は、これらの国々が世界の覇権をアメリカと競うような大国にならないようにすることでなければならないと、明確に述べています(6)。
 「国境のない」「グローバル化」と多国籍資本の時代に、アメリカの多くの国民は、どうして国防総省が世界の憲兵の役割を果たして、トヨタ、三菱、ブリテッィシュ・ペトロリアムやドイツ銀行のために世界を安全にしなければならないのかと感じています。彼らはまた、中国内のフォードやGMの工場、インドネシアやベトナム内のナイキ社の搾取工場、あるいやイランの油田に打撃を与えることに、どんな意味があるのかと疑問を投げかけています。
 アメリカの冷戦ドクトリンの中心的作成者であるジョージ・ケナンや、クリントン大統領、そしてニューヨークタイムズは、この明らかな矛盾に答えています。ケナンが1948年に国務省の政策企画部の部長をしていた時、彼はアメリカの政策立案者たちに以下の提言をしました。「アメリカは、人口は世界の6.3%にしかすぎないが、富は世界の50%を占めている。この状態では、われわれは、うらやみや恨みの対象にならざるを得ない。来るべき時代のアメリカの真の課題は、この格差の状態を維持しうるような諸関係のパターンをつくりだすことである。人権や生活水準の向上、民主化などのあいまいで非現実的な目的について話をするのはやめるべきだ。ストレートな力の概念に対処せねばならなくなる日は遠くない。そのときに理想主義者的なスローガンに邪魔されるの度合いが少なければ少ないほどよい。」(7)
 それから50年が過ぎたヨーロッパと日本の経済の再建後、ビル・クリントンは、ある労働組合の大会で、そのことについて「アメリカは世界人口の4%を占めているが、世界の富の22%を維持したい」と述べました。(8)
 もし、これでも完全に明快でないということなら、ニューヨーク・タイムズの外交政策コラムニストのトム・フリードマンは、それを、はっきりとした言葉でこう言っています。「持続可能なグローバル化は、依然として、安定した地政学的な力の構造を必要としており、それは、アメリカが積極的に関わらなければ、決して維持することはできない。シリコンバレーが設計しているすべてのテクノロジー、促進しているすべての貿易と金融の統合、そして、これが生み出しているすべての富、これらが、ワシントンD.C.に首都を置く、慈悲深い超大国によって安定化された世界において生じている。市場の隠された手は、隠された鉄拳なしには決して機能しない。マクドナルドは、F15を製造したマクダネル・ダグラス社がなければ成功することはできない。シリコンバレーのテクノロジーのために、世界を安全に保っている隠された鉄拳は、アメリカ陸軍、空軍、海軍、海兵隊である。(9)
 こうしてみると、コーエン国防長官がフォーチュン誌上位500企業の最高経営責任者に対して述べた、「合衆国旗に続いて企業が進出する…米軍が安全を提供し、企業は投資を提供する」という言葉がよりよく理解できます。アジア・太平洋全域で、GEキャピタル、ゼネラルモーターズ社をはじめ、アメリカ系多国籍企業は、アジアの経済危機と日本の長期不況に乗じて、この地域諸国へのアクセスと市場シェアを増加させているのです。そして平壌での南北朝鮮首脳会談のわずか数日後には、コカコーラが北朝鮮に輸出され、アメリカ商工会議所は平壌へ代表団の派遣を準備し始めました。
 ブレジンスキーは、「帝国主義的な戦略地政学上の三大至上命令は、従属国間の共謀を阻止して安全保障上の依存度を維持すること、従属国の従順性を維持し保護すること、野蛮な国々同士が手を組むことを阻むことである」(10)と書いています。国防総省の言うこともほとんど変わりはありません。アメリカの軍事ドクトリンは三つの必須目的を中心に作られている。それは、「国際的環境を形作ること」、「あらゆる種類の危機に対応し…アメリカの決意を示し、グローバルな指導者としてのアメリカの役割を再確認すること」、そして「不確実な将来に向けて今から備えること」です(11)。統合参謀本部は、「あらゆる形態による支配」を通じてこれを行う(12)とのべています。米国内では、これらが何を意味しているかを真剣に検討している者はほとんどいません。


「ジョイント・ビジョン2020」とアメリカのアジア・太平洋政策

 「ジョイント・ビジョン2020」は、アジア・太平洋での戦争準備への優先度を高めるものです。ワシントン・ポストの記事(13)は、この新ドクトリンのねらいを正確に指摘しています。
 「中国を名指しはせずに」、新ドクトリンは「同等の競争相手」の台頭の可能性を警告するだけにとどめて」いるとワシントン・ポストは説明しています。同記事は、「ジョイント・ビジョン2020」が、「アメリカ軍がひそかにヨーロッパから焦点をはずし、…将来の軍事紛争の可能性がもっとも高い、あるいは少なくとも競争が起こりそうな地域としてアジアに目を向けていることを示している」と述べています。この「新たな傾向は、太平洋配備の攻撃型潜水艦が増加し、軍事演習や戦略研究がよりアジアに集中し、この地域での米軍プレゼンスの再編をめざした外交が増えるといったことに現れている。国家安全保障に携わるものたちの間では、バグダッドから東京にかけての地域が今後数十年間に渡ってアメリカの軍事的競争の主な舞台になるというのが共通した予想となっている。陸軍を除き、国防総省の行うゲームは、ますますテヘランから弧を描いて東京を結ぶアジア地域を舞台に行われるようになるだろう」というのです。
 この新たな焦点のかぎとなるのは朝鮮半島の和平と、「中国との敵対的関係が生まれる可能性」の両方です。ワシントン・ポスト紙は、1996年に国防長官に就任したウィリアム・コーエンの当初の懸念の一つは、「朝鮮半島に平和が訪れた後は米軍は撤退するという仮定をどうすれば変えることが出来るだろうか」ということだったと報じています。コーエンの懸念の裏には、「アメリカの政策立案者たちの多くが、遅かれ早かれ中国がアジア全域に重大な影響力をもつ最大の国となると考えている」という事実がありました。中国の最近の台湾に対する強硬な外交姿勢とあいまって、このことが、「中国の軍事的野心へ注意をひきつけている」のです。
 米軍と基地が「北朝鮮の脅威がなくなっても韓国と日本で歓迎される」ように、ジョイントビジョン2020は、前進配備戦力が「占領軍のようにではなく、訪問者あるいはパートナーのように振舞う」べきであると述べています。「このため、ペンタゴンはアジア・太平洋の『配下の国々や従属国』との間の地位協定再交渉において、ある程度妥協を行う意志がある」ようです。
 「同等の競争者」になる可能性ありとみなしている中国と日本に、同時に関与し封じ込める努力の一環として、クリントン政権は、アメリカと幾分規模は小さいが日本の力を「再定義」し、再強化し、拡大しました。安保は今、台頭しつつある中国の力を、日米支配体制に統合するための強制的な基盤としての役割を果たしています。アメリカにとって理想的なのは、中国を、米・日・中の階級制度に取り込む、あるいは組み込むよう強制し、日本と中国がアメリカにとっての『第一の』地域パートナーの地位を競いあうという仕組みをつくることです。それができなければ、安保条約の拡大に見られるように、アメリカはどちらか一方を利用して、もう一方の孤立・封じ込めをねらうでしょう。
 ワシントンはまた、米軍の「東南アジアへの再入港」を推し進めています。いわゆる「訪問軍隊協定」の名の下に米軍がフィリピンへの再来したことはその典型を示しました。アメリカは「オーストラリアとの軍事的協力関係を拡大して1000人の兵員をクイーンズランドに派遣して合同演習を行った…。シンガポール軍は『コブラ・ゴールド』演習に参加し、「特別に、原子力空母の入港要件を満たすよう、新たな埠頭を建設して」います。アメリカは中国の包囲網を切れ目なく作るため」ベトナムをも取り込みたいと願っています。そして最近おこなわれたクリントン大統領とインドのバジパイ首相の相互訪問は、中国と、戦闘的イスラム教徒に対抗してひそかに形成されつつある米印同盟を強化するために行われました。
 最後に、ワシントン・ポスト紙上での「ジョイント・ビジョン2020」の核兵器問題へのアプローチに関する言及はすべて、イラン、パキスタン、アフガニスタンなどの国々が不合理な行動にでる可能性に関して示唆しています。しかし、この核の時代において、「あらゆる範囲の支配を行うことの出来る合同軍」は、エスカレーション支配と核「テロリズム」の実行が可能な第一撃核兵器を有していることを念頭に置かねばなりません。このため、クリントン・ゴア政権は、核戦争準備は引き続き「アメリカの政策のかなめ石」である、と強調し、イラク、北朝鮮、中国、イラン、リビアに対して核戦争開始の脅迫を行ったのです。ゴアとブッシュが弾道および戦域ミサイル防衛を支持し、アメリカが現在冷戦時代を上回る額を核兵器の研究開発につぎ込んでいるという事実は、アメリカの政治、経済、知的、文化的生活に核の覇権がいかに深く組み込まれているかを物語っています。


日米同盟(安保)

 この数十年、アメリカの指導者たちは、日米同盟について「世界の最も重要な二国間同盟」、「アジア・太平洋の安定の基礎」、「アジアの戦略的政策の要石」などといったお題目を繰り返してきました。ちょうど日本の歴代首相が新任早々ホワイトハウス詣でをするように、日米同盟についてのお題目を好んで繰り返すことが、ワシントンで政権の座を望む者たちにとっての義務となりました。最近の中国通商論議の余波を受けて、息子のほうのジョージ・ブッシュは、「我々の戦略的パートナーは日本だ」との大合唱に加わり、その日和見主義ぶりの新たな側面を示しました。これは単なる同盟を確認しただけでなく、アジアの伝統的同盟諸国を十分重視してこなかったとのクリントンとゴアへの非難でもありました。ブッシュの顧問、リチャード・アーミテージはこれを続けて、日本は中国と違って「わが国の軍事的駐留を引き受け、わが国の戦略をアジア全域に及ぼすことを可能にしている」とまで主張しました(14)。
 代価のない同盟はありません。この場合、沖縄が最大の犠牲を強いられてきました。沖縄は、巨大な訓練基地であり、通常戦力、核戦力を問わずインドシナからペルシャ湾、台湾からインドネシアにかけてのアメリカによる侵略の浮沈空母として使われています。核戦争の基地としての沖縄の役割は、安保が沖縄や日本の防衛とかアメリカの安全保障などよりも、アメリカと同盟国のエリートたちに法外な利益をもたらす地球的な無秩序を保持することに結びついています。
 冷戦終結時、ワシントン当局者は、安保を21世紀にも維持するうえで二つの主要な障害にぶつかっていることに気づいていました。ソ連なき今、その同盟は納得のいく敵を欠いていました。ワシントン当局はまた、日本国民、とりわけ沖縄県民が米軍駐留にともなう危険、混乱、屈辱などに次第に我慢できなくなっていることも知っていました。
 1995年の「ナイ・イニシアチブ」はこれらの亀裂に取り組むためのもので、それに続くSACO報告は沖縄県民を鎮めようとするものでした。ついで、当時のペリー国防長官が冷戦終結後の時代で「もっとも意義深い」首脳会談と称するものによって、「21世紀の安全保障同盟に関する日米共同宣言」が打ち出されました。その首脳会議において、クリントン大統領と橋本首相は、この同盟の新たな敵と「公式解釈」について明言しました。それは、朝鮮半島の緊張と不安定、中国の核軍備、中国との領土問題、やいわゆる「不確実性」などですが、これは現状維持の擁護といったほうがわかりやすいでしょう。彼らはまた、日米同盟を再定義し、拡大する「1978年の共同防衛指針の見直し」も発表しました。
 この軍事中心主義の拡大はジョー・ナイの視点から見る必要があります。彼は、もし北京が現在のペースで軍備増強を続ければ、20年以内に、「40年前」の中程度のNATO同盟国の軍事的能力を得ることになろうと観察しました(15)。これは6月に公表されたペンタゴンの研究でも確認されました。にもかかわらず、ナイの同僚のエズラ・ヴォーゲルは、日本、さらにおそらく台湾と韓国に配備すると脅している戦域ミサイル防衛(TMD)を通じてアメリカが中国との一大取引を追求していると私に対して語りました。ヴォーゲルが説明するようにTMDは、理論的には中国のミサイル部隊全体を無力化しうるもので、機能的にはアヘン戦争の後支配的となった力のバランスを再現しようというものです。TMDを配備しない代わりに、ヴォーゲルは、現在中国がすでに保有している以上の攻撃的潜在力を持つ兵器を配備せず、現在以上の攻撃的軍事ドクトリンを採用しないとの北京の合意を得られるものと見ていました。これはもちろん、安保条約、アメリカの核戦力、第7艦隊やその他の前方展開戦力、米宇宙司令部など、中国の「封じ込め」に役立つものをそのまま維持するものです。


沖縄と歴史的瞬間

 幸いなことに歴史も帝国も不変ではありません。勇気ある行動を通じて人々は戦争や抑圧を終わらせ、現実を変えてきました。自由と安全は与えられたのではなく、それぞれの世代により創り出され、勝ち取られてきました。私たちはまた、不当な権力と権限を行使するものたちが自滅的な行動に出る性癖を持っていることを決して過小評価すべきでないことを忘れてはなりません。
 哲学者ヘーゲルは、論理と歴史の偶然が、特定の人々を人間の歴史の道すじを決定付ける特別の立場に置く「歴史的瞬間」があると書きました。沖縄の社会、土地、資源がアメリカのアジア・太平洋の力の「かなめ石」であるからこそ、この歴史的瞬間に、光は沖縄県民の上に輝くのです。
 1990年代、沖縄県民は日米同盟の根幹を揺さぶりました。フィリピン人民とともにみなさんは、より大きな自由を実現し得ること、非軍事化と真の安全保障が可能であることを世界に示しました。東京とワシントンが名護をG8サミットの開催地に選んだとき、沖縄県民はサミットを、米国民と世界世論をアメリカの沖縄軍事占領反対へと変える比類のない機会へと変えました。
 アーミテージ報告は、この数年、沖縄と日本の基地反対・平和運動がおさめた深い影響と多くの成果を反映しています。アメリカ支配層は次第に受身の立場に立たされており、必死になって代わりの策を探し始めています。私は、この先数カ月、名護に提案されている基地、普天間基地の将来、さらには県全域でのアメリカの軍事植民地主義の将来をめぐるたたかいが、選挙その他の結果に現れるものと理解しています。これは、これは基地も外国軍もない沖縄と日本をめざす55年の戦いの最終的な勝利へと前進する重要な瞬間です。それはまた、アジア太平洋地域のほかの人々が、みなさんを支持し、さらに、沖縄と日本から撤退する部隊と基地がこれらの国々や地域へとたらい回しにされるのを許さないために立ちあがるべきときでもあります。もちろん、私たちにできることがあれば、私たちにも是非お知らせください。私たちも全力を上げて支援します。 
 勇気、連帯、自由、真の安全保障万歳!!

-----------------------------

1. Defense Monitor, Center for Defense Information, Washington, D.C., Vol. XXlX, No.2.
2. Boston Globe, September 23, 2000
3. Yoichi Kato, "U.S. pushes Japan alliance amid Asian instability", Asahi Shimbun, November 9, 2000
4.Zbigniew Brzezinksi, The Grand Chessboard: American Primacy and Its Geostrategic Imperatives, Basic Books, New York: 1997.
5. Ibid.
6. See for example, "Discriminate Deterrence", The Pentagon, Washington, D.C. 1987 and the Bush Administration's strategic doctrine quoted in "U.S. Strategy Plan calls for Insuring No Rivals Develop", New York times, March 8, 1992
7. Noam Chomsky, The Chomsky Reader, James Peck, ed. New York: Pantheon, 1987, p. 318
8. Remarks by the President to AFL-CIO Bienniel Convention, Pittsburgh, Pa., September 24, 1997, http://library.whitehous/gov.
9. Thomas L. Friedman, The Lexus and the Olive Tree, New York: Farrar Strauss & Giroux 1999, p. 373
10. Brzezinski Op. Cit. pp.39040
11. William S. Cohen, Secretary of Defense, "Annual Report to the President and Congress", 1999, http:www.dtic.mil/execsec/adr1999.
12. Joint Chiefs of Staff, Joint Vistion 2020, May 30, 2000, http:www.dtic.mil
13. Thomas E. Ricks, "Asia moves to forefront of Pentagon planning:, The Washington Post, reprinted in The Guardian Weekly, June 1-7, 2000
14.
15. Joe Nye, lecture: "Redefining the U.S. National Interest", Harvard University, Sept.28, 1999.