2000年大会INDEX

2000年日本平和大会in沖縄国際シンポジウム 海外からの文書報告

line

アラブNGO調整センター

バヒッグ・ナサール

line

 

重大な利害をはらむ新地域

 ヨーロッパおよび東西世界におけるアメリカの利権の他に、冷戦が終ってからは重大な利害と挑戦を抱える新しい地域が浮かび上がってきた。そのため、アメリカは南における多くの地域に通常兵器、核兵器を含めた軍事力増強をエスカレートしようとしている。その具体例は以下の通りである。

 「アラブ自由市場」を設立してアラブ世界の経済を統合しようとするアラブ諸国家の今日の努力は湾岸地域のアラブの石油をめぐるアメリカの独占支配に対する挑戦である。この挑戦は中東の石油資源地域に進出しようとするアメリカ、日本、EU諸国間の競争と結びついている。中東の石油資源に対する自らの権益を強化するため、アメリカはアラブ諸国の行動を規制するため、万策を講じてイスラエルとアラブ諸国間の唯一の仲介者となってきた。同時にまた、湾岸地域にアメリカの軍事力を増強し、「アラブ自由市場計画」にとって代るものとしてアメリカとその同盟国が関与した中東経済協力体制を確立するための特別の努力がなされている。

 中央アジアのもとソビエト連邦下の共和国諸国に、膨大な石油とガス資源が最近になって発見され、これらアジア諸国に石油多国籍企業による巨額の金が投資された。そのため、核装備した地中海のアメリカ第6艦隊は、これらアジア諸国の軍隊と共同で軍事演習を行うために黒海に赴いた。また、中央アジアから地中海沿岸まで石油や天然ガスを輸送するために延長されたパイプラインがアメリカの同盟国の領土だけを横断するようにしようとの試みも現在なされている。

 第三世界の広大な地域が多国籍企業のために周辺的地位に追いやられつつあり、これが国家間および各国内での富の不公平な分配につながっている。こうした鋭い両極化が世界全体の秩序を不安定なものにし、民族や文化の独自性を曖昧化し、貧困を固定化し、緊張や紛争、移民の波、社会不和や人種問題を生み出している。こうした傾向のどれもが、いくつかの国における社会の大変動へとつながり、それらの国の多くがあらゆる種類の兵器を入手しようとする呼び水となり、その結果自らの権益保護を口実とした外国の軍隊による軍事介入を招きかねないものである。

 新たに関心を呼び課題を提起している分野のなかでも最も重要なことは、いまや巨大な市場が生まれるであろうという事実である。今後数年のうちに、中国、インド、ブラジルロシアが、それに地域経済協力機構として南アフリカ、中東、東南アジア、太平洋地域やラテンアメリカが、巨大な市場となるだろう。その中のいくつかは北の先進諸国の製品を吸収できる新たな大国となり、10年後にはその吸収量は倍加するであろう。巨大な量の工業生産物と急速な資本や技術革新の流れを吸収し、その結果、労働の国際分業における主役となり、今日の経済や金融のグローバル化に大きな影響を及ぼすであろう。この辺りをめぐって利害の衝突が起こるであろう。

 大国とその多国籍企業や銀行が支配するグローバリゼーシヨンの今日的プロセスは、相互に結びついた巨大な利害を生み出しており、あらゆる地域の国家を世界的規模のネットワークの中に組み込んでいる。同時に、こうした利権を保護するために、アメリカを先頭とする軍事分野での同様なグローバリゼーシヨンのプロセスが進行中である。間違いなくアメリカはロシアと中国に圧力をかけ続け、その政治的選択の道を制限してその影響力を封じ込めるが、アメリカとロシア、中国間の対決に基礎を置いた軍事戦略から重大な利権を世界規模で保護するグローバルな戦略への転換は、既に冷戦終結の時から始まっている。


軍事同盟の拡大

 こうした戦略を実行に移すために複数の軍事同盟が相互に連結され、それぞれの役割も幾度も変わった。軍事基地と並んで、軍事同盟はアメリカとその同盟国が自分たちの新たな方針を実行に移す上での主要な道具であり手段である。

 日米軍事同盟は強化され、日本は、中国に圧力をかける目的で太平洋の東部地域に対する新たな軍事課題を与えられた。同時に太平洋地域全体の米軍はその核攻撃力を保持している。地理的には、ロシア、中国、日本の3大強国は西太平洋に位置しているが、その基地、艦隊、および軍事同盟によって、アメリカのこの地域における存在は確固として感じられる。アメリカの支配力の主な柱は日本との軍事同盟にある。韓国、台湾との軍事同盟とあわせて、北から南まで、ロシア、北朝鮮、中国の領土近くにまで延びる線に沿って巨大な軍事力増強が垂直方向に行われた。また、核を搭載したアメリカ第七艦隊は、西太平洋で現在軍事行動中であり、第三艦隊は東太平洋における行動任務を帯びている。第七、第三の両艦隊共に、いかなる国に対しても攻撃できるよう、陸、海、空軍部隊を搭載している。

 これら部隊の軍事作戦を支援するために、数百の基地がさまざまな国や島に置かれているが、その中には日本における134の基地、幾つかの陸、海、空軍基地からなる巨大な沖縄基地、太平洋全域の上空を移動する衛星から情報を収集するためのCIAの信号情報基地であるオーストラリアのパインギャップ基地、インド洋のアメリカ第五艦隊を支援するためにこの地域内外のいかなる基地にまでも核兵器を運ぶ中枢の役割をはたすグアム空軍基地、それに加えて、米軍部隊の訓練用に確保されている数十の陸上、海上地帯があげられる。

 太平洋地域における米軍部隊は膨大な兵力数をもち、ヨーロッパにおける米軍事力に次ぐものである。その中心的支えは核による抑止兼脅迫を目的に、核攻撃力を備えた陸、海、空軍力である。その抑止力を強化するためにアメリカは西太平洋に戦域ミサイル防衛システムを配備して敵対国のミサイルを無力化する計画であり、その結果アメリカのミサイルの脅威力は大幅に増強されるであろう。日米軍事同盟の中では、日本は最近、その1000マイルの責任地帯における安全を保障するとの約束を実行するためにその軍事力を増強し近代化したが、これは主に韓国を中心とするアメリカの同盟諸国ばかりか中国の懸念をも生んだ問題である。また、万一アメリカと日本がなんらかの敵対国との戦争に巻き込まれた場合、日本における基地がアメリカの核攻撃部隊によって使われることは当然考えられる。一方、日本の憲法が日本の領土や領海内への核兵器の持ち込みを禁止しているにもかかわらず、アメリカの核戦艦が定期的に日本の港に立ち寄り、日本の自衛隊と合同演習を行っている。こうした軍事構造や戦略は、日本および朝鮮半島、オーストラリア、ニュージーランド、アジア諸国や中国におけるアメリカの権益保護を狙うものである。

 NATO(北大西洋条約機構)はポーランド、チェコ、ハンガリーを加盟国として認めて以来、ロシアの領土近くの東方に拡大した。西ヨーロッパ7ヶ国に核兵器を配備することによってNATOは核のオプションを保持している。こうした拡大の狙いは、アメリカの政策―特に他の地域や国家、なかでも中央アジアに位置する諸国を含む旧ソビエト連邦に属する国々に対するアメリカの影響力の促進を目的とした政策―に対するロシアの抵抗を終わらせることにある。しかしながら、西側の軍事力の主力は既に南に移っている。すでにアメリカ中央軍指揮下にあり核攻撃力をもつ緊急展開部隊(RDF)は、対イラク戦争の終結以来、湾岸地域およびインド洋に対するその軍事的支配力を強化している。その陸、海、空核攻撃部隊の戦力は全世界を壊滅できるものである。この部隊が任務として帯びている作戦行動は東地中海から南アジア、およびデイエゴガルシア島を中心基地とするインド亜大陸に至る広大な地域にまたがっている。その作戦行動は太平洋地域のアメリカ第七および第三艦隊の作戦行動と緊密に結びついている。同時にアメリカは緊急展開部隊(RDF)の作戦行動を北のNATOにリンクさせるべくあらゆる努力をした。

 緊急展開部隊作戦支援のためのNATO加盟国間での協力について語ったレーガン政権下の当時のアメリカ国防長官ワインバーガーは、1986会計年度の対米議会報告の中で、つぎのように述べた。「アメリカとNATO同盟諸国は、ヨーロッパにおいてアメリカ・NATO軍の南西アジア地域への振り向けを埋め合わせる方法を研究中である。」(1986会計年度対議会報告、2月4日付、237頁)

 ヨーロッパから中東へのこうした部隊の振り向けは、イラクに対する湾岸戦争期間中には集中的に行われた。その結果、ヨーロッパにおけるNATO指令部と南西アジアのアメリカ中央軍(US-CENTCOM)間の関係を強める深い有機的な絆が確立した。

 この湾岸戦争以後、1995年から、NATOを南まで拡大するために地中海地域のいくつかの国々との会談が始まった。エジプトの月刊誌「エル・ヤサ?ル」1997年8月号によると、当時のチュニジアのハビブ・ベン・ヤヒア防衛大臣がワシントンを訪問し、ヨーロッパと地中海地域におけるアメリカの軍事力増強との関係を話し合った。ヨルダンのハッサン王子はヨルダンとNATO間の特別の繋がりを確立する可能性についてアメリカ政府当局とさらに詰めた会談をした。さらに、NATO指令部は現在モロッコ、チュニジア、エジプト、ヨルダン、イスラエルと会談を行っている。NATOの原理や目的に合致するようにいったん自らの方針を変更すれば、南地中海地域の他の国々との個別の会談も行われるであろう。その全てがNATOの完全な加盟国となるわけではかならずしもないが、これら諸国をNATOのグローバル戦略に引き込むために一種の特別な結びつきが討議中である。しかしながら、エジプトならびに他のいくつかの地中海諸国は、軍事同盟計画を避けるために、ヨーロッパ安全協力機構に類似した安全保障協力機構をこの地域に確立することを提案している。しかし、1999年4月24日のNATO首脳会談は、NATO加盟国の利害を守るため、NATO指令部に対してヨーロッパの外の緊張地域において作戦行動をとることを認めた。この決定は南地中海諸国の意見をなんら考慮せずにおこなわれた。首脳会談によって採択された文書「同盟の戦略概念」によると、この同盟軍の規模、即応態勢、利用可能性、配備は、集団的防衛に対する同盟のコミットメントを反映し、また、時として突然の通告を受けて、同盟の領域以外の地域をふくむ自国の本拠地から遠くはなれた場所でおこる危機対応作戦を実行するというコミットメントを反映するものとなる。(第52項)。その主な目標の一つはNBC(核、生物、化学)兵器やそれらの運搬手段の拡散にともなう危険に適切かつ効果的に対処することである。何故ならば、これらは同盟国の「人口、領土、戦力」にも潜在的脅威をもたらすからである(第53項h)。それゆえ、NATOは東地中海とインド洋のアメリカ中央軍と結びついており、そのいずれもが太平洋地域のアメリカの膨大な軍事力増強に結びついている。こうした地球規模の核攻撃力のネットワークはアメリカによって支配されている。


人民による対抗行動

1. 核兵器廃絶に向けた運動
2. 軍事同盟に反対し、通常兵器、核兵器を用いる宇宙軍事化構想に反対する運動。このような運動のうち主なものは次のことをめざしている。
 *宇宙の軍事化につながるNMD(核ミサイル防衛構想)やTMD(戦域ミサイル防衛構想)の確立の阻止。
 *宇宙戦作戦のための通信体系の確立を禁止する。
 *核兵器を搭載する艦船に対しては非核保有国の港を閉鎖し、非核保有国にすでに配備されているアメリカの核兵器を本国に引き上げさせること。
 *外国軍事基地を解体すること。
 *核保有国の領土以外のすべての地域、とりわけ中東、南アジア、東北アジアのような緊張地域を網羅する非核地帯を創設すること。
 こうしたすべての措置は、核兵器の廃絶とNATOや日米軍事同盟を含むその他の軍事条約や同盟の解体をめざすものである。

3. こうした運動をつぎのようなグローバルな問題に関連する活動領域に固く結びつけるべきである。
 *人間社会の発展、多国籍企業やWTO(世界貿易機関)、IMF (国際通貨基金)、WB(世界銀行)の慣行によって生まれている貧困と富のアンバランスな分配の根絶。
 *生物圏や宇宙空間体系も含めた環境保全。
 *国際法規範の厳格な遵守と国際刑事裁判所の早期確立。
 *市民的、政治的、経済的、ならびに社会的人権に対する断固たる支持。あらたな攻撃的戦略とあらたな兵器システムはグローバルな諸問題の建設的解決をかく乱、阻害し、よって持続可能な地球の命を脅かしている。