2007年大会INDEX

2007年日本平和大会in沖縄 国際シンポジウムパネリスト発言


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川田
忠明(日本)

日本平和委員会常任理事

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 シンポジウムのテーマに入る前に、焦点となっているアフガニスタンへの海上自衛隊派遣の問題についてのべたい。


アフガニスタン戦争と自衛隊派兵問題

 1、テロ特措法が11月2日に期限切れとなり、インド洋で米軍艦船などに給油活動をしてきた海上自衛隊は撤収した。これは、国民の世論と運動が、政府の意に反して、自衛隊を撤収させるという歴史的成果であった。
 日米両国は、海上自衛隊につづいて、陸上自衛隊をアフガニスタンに派遣するシナリオを描いてきた。今年1月12日、NATOの意思決定機関である北大西洋理事会に、日本の首相としてはじめて出席した安倍総理(当時)は、「いまや日本人は国際的な平和と安定のためであれば、自衛隊が海外での活動を行うことをためらいません」とのべ、アフガニスタンで軍事作戦をおこなうNATOとの協力を強調した。一方、リチャード・ローレス米国防副次官(当時)は、今後の貢献として、軍民一体の「地域復興支援チーム」(PRT)への自衛隊派遣をにおわせてきた。それだけに、海自の撤退は、このシナリオを狂わせ、日米軍事同盟を世界的規模で展開しようとする企みへの痛打となったといえよう。
 また、提供された石油がイラクでの作戦に転用された可能性や、給油量の誤りを防衛省が隠蔽していた問題など、国民をごまかしてきた政府の背信は重大であり、厳しく追求されなければならない。
 今、テロ根絶という国際的課題に日本がどう貢献するのかが問われている。テロは法によって裁かれるべきあり、その際に行使される実力も破壊と殺戮を目的とした軍事力ではなく、警察力でなければならない。アフガニスタンでは、武力行使が市民の憎悪を拡大している。さらに、民政支援の遅れが、戦争前よりも経済を後退させる一方、ケシ栽培が激増している。こうした状況がテロを増幅させている。アフガン政権は今、紛争当事者による和平交渉の道を模索している。それだけに日本に求められるのは、非軍事・民生支援の貢献にほかならない。
 いま優先すべきは、守屋前防衛事務次官と軍需商社との癒着問題の徹底究明である。疑惑まみれの防衛省・自衛隊に、日本の「安全」や「国際貢献」を語る資格はない。海上自衛隊を派遣するための新テロ特措法案の廃案、さらには、自衛隊の海外派遣のための恒久法を許さないために、運動を発展させることをよびかけたい。


米兵の犯罪を許さない連帯を

 次にシンポジウムのテーマにかかわって、米兵犯罪と地域経済の二点で、問題提起をしたい。
 1、米兵犯罪は、アジア各国で深刻な問題となっている。先月も、岩国基地所属の海兵隊員が、広島市で婦女暴行事件をおこしたが、在日海兵隊員によってくりかえされる性犯罪はまことに許しがたい。
 日本では1954年から2004年までの在日米軍の事件・事故は201,481件。死者は1,076人にのぼる。犯罪が多発した直接占領下時代の沖縄をふくめた性犯罪は、500件以上になる。韓国では2001年から2003年までの3年間だけでも、性的暴行事件は、232件に達する(Stars and Stripes, Pacific Edition, June 26, 2004)。2005年11月1日、フィリピン、スービックで22歳の女性への暴行事件がおきたが、そのスービックとクラークでは1980年から1988年までに、3,265件の米兵犯罪が告発されている。そのなかには15件の子どもと82件の女性に対する性的虐待が含まれている(フィリピンの女性団体連合・ガブリエラ・事務局次長ラナ・リナバン氏)。
 ヨーロッパでは、基地周辺の凶悪犯罪はきわめてまれであり、アジアの状況は、植民地的といわざるをえない。しかも、日本をはじめアジア各国が米軍の地位について取り結ぶ協定(地位協定)は、米軍による米兵被疑者の保護が優先される不平等なものとなっている。
 2、米軍は事件のたびに「綱紀粛正」を繰り返し、「良き隣人」をめざそうとする。しかし、それは本質的に不可能である。
 今年1月、在韓米軍兵士(23)が67才の女性を殴った後、二度にわたって暴行するという事件が起きた。その際、駐韓米軍司令官は、「この種の事件を二度と起こさないとは約束できない」とのべている。実際、性犯罪は、軍隊に不可避である。2003年、コロラド・スプリング空軍学校で数々の性的暴行事件が明らかになったが、当局の調査では、在籍女性軍人の70%がセクシャルハラスメントを受けたと回答し、19%が性的暴行を受けたと答えている(CNN.com, August 29, 2003)。
 米兵犯罪は個人の資質に解消されえない、軍隊の本質に起因する問題である。とりわけ海兵隊員は、第二次世界大戦以降、その「殺人教育」においてめざましい進歩をとげてきた(“On Killing”, David A. Grossman, 1995)。それが凶悪犯罪への垣根をひくくしている。同時に、戦地でのストレスやトラウマが、事態を悪化させている。イラクやアフガニスタンで任務についている米中央軍では、性的暴行の報告件数は2002年24件、2003年94件(Stars and Stripes, European Edition, May 15, 2004)と激増している。イラク帰還兵の心的外傷後ストレス障害(PTSD)による犯罪も深刻だ。
 昨年夏、元海兵隊員が、ジョージア州で女性をレイプ殺害し、自殺した事件があった。犯人のケンドリック・レデットは1995年、沖縄の12歳の少女を誘拐レイプ事件で6年半の懲役刑を受けた人物に他ならない。海兵隊員としての「本性」は、服役ふくめ10年以上たってもなんら変わっていなかった。また、先にふれたスービックの暴行事件では、起訴された4人が全員、沖縄キャンプ・ハンセン所属の海兵隊員である。昨年12月に、主犯ダニエル・スミス被告に終身禁固刑40年が言渡されたが(控訴中)、他の三被告は無罪となり、キャンプ・ハンセンに復帰している。なおスミス被告は佐世保を母港とする強襲揚陸艦でフィリピンに上陸していた。
 3、これらの例が示すように、在日海兵隊の犯罪は、日本のみならず、アジアにとっても共通の深刻な問題である。市民の安全と人権を完全に守るには、外国軍隊の撤退が不可欠だが、それが退実現される前にも、*世界で唯一日本に駐留する海兵隊の縮小・撤退、及び居住地域への立ち入り規制、*地位協定を改定し、基地受入国の主権のもとに、被疑者への裁きと処罰を可能にすること、*被害者の救済・支援をおこなうためのシステム、ネットワークの確立、などが求められている。
 これらは、韓国、フィリピンをはじめ駐留米軍犯罪に苦しむアジア各国、とりわけ基地周辺地域、駐留地域に共通した課題である。この点で、国際的な交流と連帯を住民・自治体ぐるみでひろげていくことが求められている。


米軍基地のない地域の経済発展を

 次に、米軍基地と地域経済の問題である。
 1.日米政府は、「札束」をテコに、米軍基地に対する世論をおさえようとしてきた。
 政府は、米軍基地をかかえる自治体にたいする交付金や、「基地周辺の生活環境を整備する」目的で助成金を支出してきた。また、国が支払う沖縄の軍用地料は、着実に増え、94年以降は農漁業による収入を上回っている。
 米軍も一昨年、報告書「沖縄経済に与える米軍基地のインパクト」を作成し、在沖米軍の経済効果は「県民総生産の6%以上、関連収入を含めれば10%になる」「米軍の駐留は地元経済への貢献が顕著だ」と強調した。その二カ月後、米軍再編協議のため来日したライス米国務長官(当時)も、大規模な米軍削減は経済的損失が大きいとけん制した。
 しかし、米軍再編のもとで、あらたな矛盾が拡大しつつある。
 再編促進法によって、自治体には、協力の度合いに応じて、交付金が支出されるようになった。基地をかかえていても、計画を受け入れない限り、再編交付金は出ない。これは自治体への基地関連支出を、これまでの負担への「補償」という性格から、基地強化のための「懐柔と脅迫の手段」へと変質させるものであり、自治体、住民の反発を広げている。
 また、再編では、一部の米軍用地の返還が計画されていることから、基地に生活を依存する人々の認識にも変化が生まれている。
 基地従業員の労働組合のある幹部は「いつまでもあると思うな、親と基地」と、基地を安定した職場とみる意識の変化を指摘している。米兵向けの不動産業界には、「基地返還反対」の声が強いが、基地に依存しつづける経済的リスクが顕在化し、将来への不安がひろがっている。「ハコもの」優先の振興策についても、「(施設を造っても)維持管理費など市からの予算の持ち出しが増え、基地あるが故の有利な補助が逆に財政を圧迫する『両刃の刃』になりかねない」との声もある(「沖縄タイムス」)。
 米軍基地が地域経済を潤すという議論に、様々な問題があることが明らかになりつつある。それだけに、この問題は、基地撤去の世論結集にとっての重要課題となっている。
 2、沖縄県は、米軍再編による施設の返還で、地域経済にどのような影響があらわれるのかを調査し、その結果を今年3月に発表した(「駐留軍用地跡地利用に伴う経済波及効果等検討調査」沖縄県知事公室基地対策課)。
 これによれば、返還によって失われる収入(軍用地料、基地労働者の収入、基地関連売り上げ、交付金など)の総額は、年間1,911億円だが、その跡地を利用した民間の活動によって生まれる年間販売額は8,707億円、誘発される経済効果9,110億円、税収1,253億円を見込んでおり、民間転用によるプラスが圧倒的に大きい。
 この試算は、過去の実績にもとづいている。例えば、米軍住宅跡に誕生した那覇新都心地区の経済効果(2002年度実績)は、返還で失われた収入129億円にたいし、1,973億円の経済効果を生み出した。跡地整備のための公共投資(国、県、市)総額は、使用開始後10年間の税収で補填されている。北谷町の場合、失われた収入の総額は年間7.5億円であるが、跡地使用開始後の生産誘発額は、597億円。いずれの場合も、米軍基地の民生転用が経済的に大きなメリットをもたらしてきた。
 この調査は、軍用地料の減収を心配する地主を説得し、米軍再編を促進するという目的もあるが、結果として、基地撤去による経済効果を立証したものとして興味深い。
 3、ちなみに、基地跡地の民間転用による効果をもっとも良く知っているのが米当局自身である。アメリカでは、90年代以降、国内の基地閉鎖を系統的にすすめているが、当初は、住民から大きな不安の声があがった。米国のある不動産業界紙(“Reality Time” 13 April, 2001)は、当時の様子を「国中の市民と業界がパニックに陥った」と記している。
 そのため当局は、跡地の民生転用が利益をもたらすことを力説してきた。例えば、合衆国・環境保護局は、「基地を素晴らしい場所に転換する:軍事施設閉鎖後の新しい生活」といったパンフレットを作成している。
 基地が地域経済にとって不可欠であるという主張が、いかに偽りのものであるかは、これらの事実が雄弁に物語っている。基地撤去による地域経済の持続的な発展をめざす各国の経験と知識の交流は、住民・自治体ぐるみの運動を基礎にした、国際連帯を発展させる力となるだろう。


外国軍基地反対の国際連帯

 最後に、外国軍事基地に反対する運動の国際連帯の性格についてふれたい。
 今年3月にエクアドルに、50カ国から400人が参加して米軍基地撤去国際大会が開かれた。21年前にはじまった日本平和大会が、この国際的な運動の発展に寄与してきたと自負している。日本の運動は今後も、国際的な役割を積極的に果たしていくことが求められている。
 このたたかいの勝利の基礎は、自治体との共同を含む地域住民の広範な団結にある。これを基礎にしてこそ、各国の運動をはげます、有益な交流と連帯が可能となる。
 経済のグローバル化が進行するもとで、アメリカは、世界各地に介入できる「先制攻撃力」によって、その「国益」を実現しようとしている。在外米軍基地はまさにその足場となっている。それゆえ、米軍基地をめぐるたたかいは、一地方の問題にとどまらず、米国の世界戦略に反対し、世界の平和秩序をまもるたたかいであり、新自由主義政策の野蛮な展開に抵抗し、公正な世界を実現する世界的な流れの一部である。ここに、私たちの運動がもつ広大な共同の条件とよりよい世界への展望がある。