2006年大会INDEX

2006年日本平和大会in岩国・広島 国際シンポジウムパネリスト発言


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新原 昭治


日本
国際問題研究者
日本平和委員会理事

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 1.私はまず、シンポジウムで席を同じくしている海外代表のみなさんに心からの連帯を表明します。
アメリカ、グアム、韓国の方々の活動から、私たちはアメリカ政府の戦争政策に反対して奮闘している人々が世界に多数存在することを、事実によって教えられ、深い確信を得ました。日本が真に平和を求めるアジアと世界の大きな歴史的流れに参加できるようにする上で、日本の運動はこれら海外代表の方々から多くを学ばなければならないと強く感じました。

 2.日本では、過去1年間、米軍基地と日米軍事同盟の再編強化を強行しようとする日米両政府へのさまざまの形での国民の反対の運動が全国的にさらに発展しました。
 平和民主勢力は全国各地でこのたたかいの先頭に立っています。
 とくに7月9日、世界最大の米海軍海外基地である横須賀市でひらかれた米軍再編強化反対、米原子力空母横須賀配備反対の3万人の大集会とデモは、米軍基地の強化に抗議する国民的運動の新しいもりあがりを示しました。横須賀での米軍基地に関連した大規模な反対集会は1980年代はじめ以来のものとなりましたが、これを可能にしたのは、地元はもちろん、全国的な米軍基地再編強化に反対する各地での平和民主勢力のたたかいのひろがりでした。
 このような平和民主勢力の奮闘は、各地における自治体ぐるみの米軍再編強化反対・米軍基地強化反対の流れを確実に支え励ましています。
 その典型例は、ここ岩国の去る3月12日の米海兵航空基地強化の是非をめぐる住民投票です。住民投票では、投票の不成立をねらって投票ボイコットを呼びかけた安倍現首相につながる基地強化賛成勢力の妨害をはねのけて、住民投票を成功させるためにさまざまの運動体が力を合わせて市民に投票を呼びかけました。その結果、過半数の市民が投票所に行き、開票結果は反対票が投票総数の89%に達して、圧倒的な市民が基地強化に強く反発していることを実証しました。この住民投票の成功は、岩国基地の強化による100機を大きく超えるジェット戦闘機常駐態勢とそれがもたらす騒音などの被害に批判的態度をとる市長のイニシアチブに、広範な市民たちが呼応し、ともにたたかった共同の成果であります。
 首都圏で最も米軍基地の集中がはなはだしい神奈川県では、自治体ぐるみで基地再編強化への抵抗がつづけられています。とくに、米国ワシントン州のフォート・ルイス米陸軍基地からキャンプ座間への前進指揮司令部の移転計画に対しては、地元の座間市、相模原市が足かけ3年にわたり超党派的な反対運動を続けています。そこでも、平和民主勢力は反対運動推進のカナメの役割を果たしています。第2次世界大戦後60年に及ぶ米軍基地のいすわりは、第2次世界大戦前夜の旧日本陸軍による農地の強奪に始まった住民への軍事的重圧を永続させたものでした。この痛みをこれ以上つづけさせてはならないという市民共通の思いは、相模原市が打ち出した「黙っていると百年先も基地の街」という抵抗のスローガンにはっきりと示されています。
 一方、神奈川県の横須賀市では、2008年に計画されている米原子力空母の母港化をやめさせるため、いまこの問題で住民投票の実施を求める条例制定の署名運動が市民たちによってすすめられています。最近、横須賀港では、米攻撃型原子力潜水艦からとみられる異常放射能が検出され、米原子力推進艦船は「安全」という日米両政府の宣伝が崩れました。原子力空母の原子炉が災害を起こしたら、それは横須賀市を超えてひろく首都圏に波及する恐れもあります。横須賀市民の住民投票条例制定の運動に呼応して、東京湾を囲む首都圏一帯でも原子力空母配備に反対する新しい運動が展開されようとしています。
 日本の中で最も濃密に多数の米軍基地がいすわる沖縄県では、世論におされた結果、都市の人口密集地のど真ん中の普天間海兵航空基地の撤去を日米両政府が10年前に約束しましたが、不当にもその引き替え条件として、新たに沖縄本島北部の名護市に新基地を建設する計画をおしつけています。しかし、これは圧倒的多数の沖縄県民の強い反発を買っており、平和民主勢力はこれを阻止するたたかいの先頭に立っています。
 11月19日投票の沖縄県知事選挙では、新基地建設反対を正面から掲げた野党5党の共同推薦候補が47%の得票ながら惜しくも敗れましたが、新聞社の出口調査が示す通り、当選した自公推薦候補に投票した人々のあいだでも新基地建設への反対が賛成をはるかに上回りました。選挙直前(11月11日配信)の共同通信社の世論調査では、新基地建設に反対する沖縄の有権者は全体のほぼ60%に達し、賛成は20%に過ぎませんでした。自公候補は選挙戦で基地問題を争点にするのを避ける一方、「頭越しに日米(両政府)が(新基地計画を)協議し合意したことは納得できない」などと述べて選挙民の強い批判におもねりました。ですから、「琉球新報」社説(11月20日付)が述べた通り、「政府が、選挙結果を『米軍再編へのゴーサイン』と受け止めたとしたら、県民の真意を見誤ることになる」のは明らかです。新しい基地建設も、基地のたらい回しも許さず、基地の撤去を求めるたたかいの新しい重大な段階がまさに始まろうとしているのです。
 私たちにとって、米軍基地の重圧からの解放のためにたたかう沖縄県民との共同をこれまで以上に強めることが大きな課題となっています。
 いま全国的に、自衛隊基地などへの米軍戦闘爆撃機の訓練移駐に反対するたたかいが北海道から九州までの各地でひろがっています。また、多くの地域で米軍基地再編強化と日米軍事同盟強化に反対し抗議する運動が取り組まれています。
 重要なことは、これらのたたかいのすべてが、日本国憲法第9条をまもる国民各層の広範な運動と強いつながりをもちつつ発展していることです。日本の自衛隊は、アメリカに従属する軍隊として、アメリカの戦略にもとづきいままさに海外における戦争に動員されようとしています。日米軍事一体化のかつてない強化はそのためにほかなりません。基地そのものが、米軍基地への自衛隊の常駐とか自衛隊基地への米軍の配備などをつうじて、全国的に日米共同基地へと転換させられようとしています。
 米軍再編は、米軍基地の再編強化をねらうだけでなく、自衛隊をアメリカの戦略のもとで海外での戦争に動員する態勢のかつてない強化、つまり日本国憲法第9条の公然たるじゅうりんによる戦争準備体制の強化をも意図したくわだてにほかなりません。
日本の平和民主勢力は、アメリカの先制攻撃戦略に自衛隊を動員する危険きわまる計画の重大な進行に強く反対し、みずからの政権によって「憲法の改定」を実現すると公言した初めての首相に率いられた安倍政権の憲法改悪と日米軍事同盟強化をはばむため、広範な国民とともに行動していくでしょう。このたたかいは、日米軍事同盟とその根拠になっている日米安保条約をやめさせて、日本を米軍基地のない、憲法第9条をまもる、平和で真に独立した国に変え、軍事力に頼らない世界平和の実現のためにアジアと世界の諸国とともに力を尽くす壮大な展望を切り開くものであることを深く確信しています。

 3.ここで、ブッシュ政権がすすめている世界的な米軍再編の重大な本質的問題点について、若干ふれたいと思います。
 ブッシュ政権がフセイン政権の「大量破壊兵器保有」という虚構の口実で始めたイラク戦争は、イラクばかりでなく、中東全体に深刻な災厄をもたらしています。イラクへの先制攻撃の戦争は、国連憲章の平和原則をじゅうりんするブッシュの世界戦略の重大な危険性とその犯罪的本質を世界の人々の前に明らかにしました。
 ところで、米軍再編との関係で見過ごせないのは、ブッシュ政権にとって、イラク戦争の強行と世界的な米軍再編は、当初からこの政権の世界戦略上の二大課題として位置づけられてきたことです。イラク戦争と米軍再編は、ブッシュの先制攻撃戦略の「双子」にほかなりません。シーファー駐日米大使は米中間選挙での共和党敗北直後、日本における米軍再編にはなんの影響もないと言明しましたが、これは彼らの傲慢さとともに、米軍再編強化がアメリカの覇権主義的戦略の本質的な野望であることを示しています。
 ブッシュはまだテキサス州知事であった1998年に、大統領選出馬準備のため、現国務長官のコンドリーザ・ライスと初めて戦略問題で懇談しましたが、その時から、世界的な米軍再編を最重要テーマとして語り合いました。ライスはその直後、ブッシュの軍事・外交戦略をお膳立てする側近グループ「ウルカヌス・グループ」の責任者の一人になりましたが、ブッシュ政権成立後の一連の経過を通じ、この政権が当初から、イラク戦争計画と世界的な米軍再編を、軍事力によって世界を牛耳るための最重要な二つの戦略的冒険として取り組んできたことは明らかです。
 米軍の世界的再編ならびにそれと一体の日米軍事同盟など軍事同盟の強化こそは、ブッシュ的手法によるアメリカの世界戦略・戦争戦略のきわめてあくどい展開の中心に位置するものです。
 したがって、彼らは、これに対する諸国民の批判と抗議の声とたたかいを非常に恐れているのです。2003年3月にイラク戦争を開始してからさらに8ヵ月後の同年11月に、ブッシュ大統領が世界的な米軍再編についての最初の声明を発表する10日前に、イラク軍事占領の泥沼にすでに苦悩していたラムズフェルド国防長官が来日して米軍再編の協議をおこない、沖縄の普天間基地を視察しに来たのは、ました。ここには、米軍再編を本格的に進行させるにあたり、米軍基地の異常な長期存続といちじるしい対米従属に不満を深める日本国民との矛盾の集中的表現である普天間基地問題に、目を注がざるをえなかったせいにほかなりません。ブッシュ政権はイラク戦争のような先制攻撃の戦争のための軍事的拠点を、日本で強化し、自衛隊を米軍とともに世界で戦わせるために日米軍事一体化をすすめようとしていますが、その一方で日本国民の基地反対・基地撤去の世論と運動のひろがりをひどく恐れているのです。
 いまの米軍再編の土台にあるアメリカの軍事戦略の重要な特徴点を3点指摘したいと思います。
 第1は、ひきつづく先制攻撃戦略です。イラク戦争の破綻による国際的孤立はむき出しの先制攻撃戦略の遂行をいくらか困難にしてはいますが、その本質的な危険はいささかも軽視すべきではありません。日本における米軍再編の強行や、先住民の権利を侵した軍事的植民地支配下のグアムの米軍要塞化それ自体が、危険な意図の根深さを物語っています。同時にまた、核・非核両戦力による「グローバル・ストライク(全地球的打撃)」という名の一方的な全世界的攻撃態勢の強化や、21世紀中使えるという大がかりな新型で小型の核兵器開発の構想などは、先制攻撃戦略が続いていることを示す最近のきわだった動きです。
 第2は、同盟国軍の利用の強化です。イラク戦争が泥沼に陥り、アメリカ軍は陸上戦闘兵力の不足に手を焼いています。いま、ブッシュ政権は、日本の自衛隊など同盟国軍を最大限に活用することによって不足している米軍地上戦闘部隊を穴埋めさせることをねらいながら、圧倒的軍事力によって世界を抑えるという軍国主義的哲学によって立つ覇権主義的戦略をすすめつつあるのです。
 ロサンゼルス・タイムズ紙2005年3月11日付は、「イラク戦争のため、ペンタゴンの作戦計画立案者らは軍事力使用の重要な前提条件を考え直さざるをえなくなった」「その結果、同盟国軍から援助を求める発想がペンタゴンではもっぱらである。陸軍と海兵隊がイラクとアフガニスタン向け兵員要求で緊迫するにつれ、同盟国の参加がいっそう重要性を帯びてきている」と報じました。自衛隊など他国の軍隊を米軍の軍事行動に事実上加担させようとする動きが加速されつつあることの真の背景は、まさにこの赤裸々にその帝国主義的意図を示した戦略です。
 第3は、ユーラシア大陸心臓部に向けた米軍配備態勢の圧倒的な強化、重点的拡大の危険性です。グアムの史上例を見ないほどの超一大軍事要塞化が、「沖縄からの海兵隊移駐」というでたらめな宣伝をねらった虚構の口実のもとに強行されようとしていますし、イラク戦争によってイラクなどペルシャ湾岸地域でひろげたアメリカの軍事支配圏を維持するため、イラク国内の米軍基地の恒久的存続がひそかにくわだてられています。さらに、カスピ海の東西両岸地域やアフリカなどに向けて拡大することがねらわれています。こうして、東アジアからユーラシア大陸心臓部にかけて、さらにはアジアとその周辺においてアメリカの覇権追求に向けた米軍の軍事的配置に拍車がかかっています。日本の米軍基地強化や韓国駐留米軍の朝鮮半島以外に向けた軍事機能の強化はその例です。
 とくに、日本の横須賀への原子力空母の配備や、西太平洋水域における米海軍の空母と、攻撃的で莫大な核攻撃戦力そのものである戦略原潜など潜水艦戦力の圧倒的強化配備はそのことを生々しく物語っています。アジアに向けた米軍の殴り込み戦力や核・非核の攻撃態勢がこれまでとは格段に強化されつつあることは、アジアの平和にとって深刻な問題です。
 朝鮮半島など東アジアの問題に対してアメリカが、イラク戦争の時とは違い、外交的交渉にも訴える政策をとっていることから、アジアに対する圧倒的な軍事力の集中的配備という危険な傾向を甘く見たり軽視することがあってはなりません。
 最近のイギリスの新聞フィナンシャル・タイムズその他が指摘した通り、イラク戦争敗北によってもたらされたブッシュ政権の政治的後退はかくも深刻なものである上、東アジアでは、韓国国民の強い批判的世論の存在や中国、ロシアがアメリカのいいなりにはならない事情があるなどの理由から、「交渉」をも対外戦略上、重視して活用してはいるものの、それが軍事的な「封じこめ」や軍事的「抑え込み」という攻撃的軍事戦略と共存させた複合的多層的な戦略であることを、見落としてはならないと思います。
まさにこれこそが、今後数十年単位で続けるとブッシュ政権首脳が解説している「長期戦争」の名による恒常的戦争態勢の真の内容でもあります。

 4.いま見てきたような状況のもとで、私たち平和運動にとって、世界の真の平和のため、侵略的な戦争政策への反対のため、アメリカ軍の海外軍事基地に反対するたたかいで国際的な連帯を強めることがきわめて重要な課題になっていると考えます。
 アジアにおいては、1970年代以降、アメリカの軍事基地を自分の国からなくし、非軍事的手段による安全保障を求める流れが大きくひろがりました。
 東アジアにおける米軍基地の撤去の実例をふりかえると、1970年代半ばのベトナム・インドシナ侵略戦争の敗退によって、南ベトナム、ラオス、カンボジアからすべての米軍基地が一掃されました。さらに、5万名の米軍部隊が駐留しベトナム爆撃のための米空軍基地が多数おかれていたタイでは、軍政打倒の結果生まれた対米自主性を求める連立政権が米軍基地の撤去を求めたため、1976年までにタイからも米軍基地が一掃されました。1979年には、「中国は一つ」と認めた米中共同声明の結果、台湾からすべての米軍基地が撤去されました。そして、1992年にはフィリピンの上院決議によって、フィリピンからすべての米軍基地が撤去されたのです。
 こうしていま、いま東アジアでは、日本と韓国以外には米軍基地はありません。この30年ばかりのあいだのこうした巨大な変化によって、いまでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)が近隣諸国との対等平等の平和的協力によって世界の平和と自国の安全を追求する道をすすんでおり、この流れはさらにアジア全体にまでひろがろうとしています。
 この誰もが押しとどめ得ない大きな平和の流れが、それぞれの国の米軍基地国からの離脱、米軍基地の撤去とまさに並行してすすんだことはきわめて教訓的です。これこそ、まさしくいま世界の三分の二を超す国々が加わった非同盟運動の潮流に共通してみられる歴史的な現象です。
 日本のいまの「再び戦争する国」への危険な動きは、日米軍事同盟のもとで世界最大の米軍基地群がいすわるもとで起きつつある、歴史の重大な逆行現象です。
 私は、こういう危険な事態の進行に一日も早く終止符を打ち、わが国もまた、米軍基地とアメリカとの軍事同盟をなくして、アジアと世界の諸国と平和的に生きていける道をすすむ上では、そのための国民的な運動を活発にひろげることと同時に、そのための国際的な連帯が、これまでのいつにもましてきわめて重要な課題になっていることを、とくに強調したいと思うものです。